【労働基準関係法制研究会報告書解説】法改正で変わる、2026年度から副業の割増賃金通算は撤廃へ?企業の実務対応は

はじめに:労働基準法の現状と課題、そして本検討の目的
令和6年12月10日(火)厚生労働省は労働基準関係法制研究会 第15回資料の報告書を公開しました。この研究会は、働き方改革や副業・兼業の促進など、近年の労働環境の大きな変化に対応するため、労働基準法を中心とした労働関係法制の将来像を検討する目的で開催されてきました。
1947年に制定された労働基準法は、戦後日本の労働者保護の基本となってきました。しかし、テレワークの普及やデジタル技術の発展、副業・兼業の増加など、働き方が大きく変化する中で、現行の制度では十分に対応できない課題が増えています。
本研究会では、「働く人を守る」と「多様な働き方を支える」という2つの視点から、具体的な制度改正の方向性を示しています。特に注目されるのは、副業・兼業における労働時間管理の簡素化や、労働者の健康管理責任の明確化、ギグワーカーやプラットフォームワーカーなどの新しい働き化への労働者性判断の明確化など、実務に直結する提言です。
これらの提言は、近い将来の労働法制に大きな影響を与えることが予想されます。2026年度を目処とした今後の法改正の基礎となるものであり、企業の人事労務担当者に2025年度注視すべき重要な指針となります。
検討の基本的な考え方

本研究会の検討は、「働く人を守る」と「多様な働き方を支える」という2つの重要な視点のバランスを取ることを目指しています。「守る」の観点からは、長時間労働の抑制や健康確保措置の実効性向上など、労働者の基本的な権利と健康を確実に保護することを重視しています。特に注目されるのが、就業時間外での「つながらない権利」の検討です。これは欧州で導入が進む、勤務時間外のメールや電話などの業務連絡から労働者を解放する権利であり、仕事と私生活の境界を明確にする新たな試みです。
「支える」の観点からは、テレワークや副業・兼業などの柔軟な働き方を促進するため、現行の規制を合理的に見直すことを提案しています。例えば、副業・兼業での労働時間通算制度の簡素化など、実務上の負担軽減策が示されています。
これらの提言は、デジタル化が進む現代社会において、労働者の健康と私生活を確保しながら、多様な働き方を実現するための具体的な道筋を示すものとなっています。
労働基準関係法制研究会報告書 主要検討事項一覧
報告書では多くの項目が「検討する」「研究を進める」という表現であり、具体的な制度設計はこれからの課題とされています。一方、報告書で特に法改正が明確に言及されている項目としては副業・兼業の労働時間通算、健康管理責任の強化があげられています。
労働者の健康確保のための労働時間の通算は維 持しつつ、割増賃金の支払いについては、通算を要しないよう、制度改正 に取り組むことが考えられる。その場合、法適用に当たって労働時間を通算すべき場合とそうでない場合とが生じることとなるため、現行の労働基 準法第 38 条の解釈変更ではなく、法制度の整備が求められることとなる。(p48 (2)副業・兼業の場合の割増賃金)
| 項目 | 現状の課題 | 報告書での方向性 | 法的注意点 | 企業実務における注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 労働者性判断 | • 働き方の多様化への対応 • プラットフォーマー等新しい働き方の登場 | • 継続的な専門的研究体制の整備 • 個別職種のガイドライン等の検討 | ⚠️労働者性判断の予見可能性を高めるための新たな法的整備の可能性 | • 契約内容・実態の確認 • 労働者性判断の記録保管 |
| 副業・兼業の労働時間管理 | • 日次での労働時間通算による実務負担 • 健康確保の実効性 | • 割増賃金計算の労働時間通算不要化 • 健康確保のための月単位での通算 | ⚠️法制度の整備が必要 ⚠️健康確保措置の強化 | • 月次での 労働時間把握体制 • 健康管理 体制の強化 |
| 勤務間インターバル | • 導入率の低さ • 実効性の確保 | • 努力義務から義務化を視野に検討 • 段階的な導入促進 | ⚠️法規制強化の検討 ⚠️適用除外等の検討 | • 労務管理体制の整備 • 代替措置の検討 |
| つながらない権利 | • 勤務時間外の業務連絡 • 仕事と私生活の境界 | • ガイドライン等による促進 • 労使での協議・ルール化 | ⚠️現時点では法的規制ではなくガイドライン | • 社内ルールの策定 • 労使協議での検討 |
| 連続勤務制限 | • 長期連続勤務による健康障害 | • 13日を超える連続勤務の制限 • 例外措置の検討 | ⚠️労働基準法上の規定新設の検討 | • シフト管理の見直し • 例外措置の検討 |
副業・兼業時の割増賃金通算の撤廃:本検討における具体的な論点

現行制度では、副業・兼業を行う労働者の労働時間は、事業場が異なる場合でも通算して管理し、割増賃金を計算する必要があります。
今回、割増賃金計算のための労働時間通算は不要とする一方で、労働者の健康確保のための労働時間把握は維持・強化する方針が明確に示されました。
報告書では、「賃金計算上の労働時間管理と、健康確保のための労働時間管理は分けるべき」としており、この見直しには法改正が必要とされています。この規制について、報告書では以下の方向性が示されています。
基本的な考え方
副業・兼業が使用者の命令ではなく労働者の自発的な選択・判断により行われるものであることからすると、使用者が労働者に時間外労働をさせることに伴う労働者への補償や、時間外労働の抑制といった割増賃金の趣旨は、副業・兼業の場合に、労働時間を通算した上で本業先と副業・兼業先の使用者にそれぞれ及ぶというものではないという整理が可能であると考えられる。
健康確保の考え方
労働者は使用者の指揮命令下で働く者であり、使用者が異なる場合であっても労働者の健康確保は大前提であり、労働者が副業・兼業を行う場合において、賃金計算上の労働時間管理と、健康確保のための労働時間管理は分けるべきと考えられる。
具体的な方向性
こうした現状を踏まえ、労働者の健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払いについては、通算を要しないよう、制度改正に取り組むことが考えられる。その場合、法適用に当たって労働時間を通算すべき場合とそうでない場合とが生じることとなるため、現行の労働基準法第38条の解釈変更ではなく、法制度の整備が求められることとなる。
注意すべき例外
同一の事業者の異なる事業場で働いている場合や、労働者が出向先と出向元で兼務する形態のように、使用者の命令に基づき異なる事業場で働いているような場合においては、引き続き通算することが妥当であること
現在の副業制度を運用している企業への重要な注意
副業を制限している企業
現在、副業を原則禁止としている企業においては、政府の副業・兼業促進の方針や、今回の制度改正の方向性を踏まえ、副業制限の合理性について再検討が必要です。特に、労働時間通算による管理負担を理由とした制限については、今後の制度改正により、その根拠が失われる可能性があります。
副業を認めている企業
すでに副業制度を導入している企業においても、健康確保の観点から管理モデルを利用せず雇用契約で副業をしている従業員の労働時間通算を行っていない場合は、早急な対応が必要です。報告書では健康確保措置の重要性が強調されており、将来的な法的責任の強化も示唆されています。
健康確保のための労働時間把握を怠った場合、労災発生時等に企業の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。月次での労働時間把握と適切な健康管理体制の整備は、現行法制下でも重要な責務となっています。
今後の対応
ほか報道では、2024年度内に方針をとりまとめ、はやければ2026年度での法改正を予定している旨報道されています。それまでの期間においても、特に健康管理面での対応は着手可能です。企業としては、月次での労働時間把握の仕組みづくりや、健康確保措置の具体化など、段階的な準備を進めることが推奨されます。副業・兼業に関する社内規程についても、今回の報告書の方向性を踏まえた見直しの検討を始めるべき時期に来ています。
月次での安全配慮を目的とした通算

労働基準関係法制研究会の報告書で示された副業・兼業の労働時間管理に関する見直しは、実務上の大きな転換点となる可能性があります。
特に健康確保のための労働時間通算は、制度改正後も維持・強化される方針が明確に示されています。現状、多くの企業で副業・兼業者の労働時間通算に課題を抱えており、その運用には多大な実務負担が生じています。
このような状況の中、副業時の労働時間通算を効率的に行うためのサービスも登場しています。例えば、副業事故防止プラットフォーム「フクスケ」では、過労死ライン超過防止のための労働時間通算を実施しており、大企業を中心に工数削減の成果を上げている事例も報告されています。
企業としては、法改正の動向を注視しつつ、特に健康管理面での対応は早期に着手することが望ましいと考えられます。その際、自社での運用体制の構築に加え、既存のプラットフォームサービスの活用も、効率的な対応の選択肢の一つとして検討に値するでしょう。
今後も副業・兼業の促進は政策的な方向性として継続されると考えられ、企業には実効性のある健康管理体制の整備が一層求められることになります。
執筆者
小林大介 シニアリスクリサーチャー ISO30414リードコンサルタント 株式会社フクスケ代表VOYAGEGROUP(現CARTA HOLDINGS)新卒入社。株式会社サポーターズの立ち上げに関わる。同社で支社長経験後、副業経由でVTuber事業を手掛けるスタートアップにHRマネージャーとして転職。組織急拡大の中、ニューリスクを複数経験。2019年7月に株式会社フクスケを...