公務員の副業・兼業リスク最前線:深刻な人材消失を見据えた人的資本リスク対策【前編】

近年、政府主導で副業・兼業が推進され、民間企業では柔軟な働き方が広がりつつあります。一方、公務員の皆さんにとって、副業・兼業は依然としてハードルが高いと感じている方もいるのではないでしょうか? 実際、公務員の副業・兼業に関する相談は増加しており、中には「知らなかった」では済まされない深刻なケースも出てきています。
特に、近年は副業・兼業の形態が多様化しており、従来の基準では判断が難しいケースも増えています。そのため、公務員であるあなたはもちろん、制度を運用する人事担当者も最新のリスクとルールを正しく理解しておくことが重要です。
開示データで見る公務員の副業・兼業許可状況【72%が営利目的】

近年、公務員でも副業・兼業が注目を集めています。平成31年4月1日時点の総務省調査※によると、地方公務員の副業・兼業許可件数は前年比約14.6%増の41,669件に達しました。この増加傾向は、人材の有効活用や個人のスキル向上、地域貢献などの観点から歓迎すべき動きといえるでしょう。
副業・兼業の内訳では、全体の約72%を占める30,163件が「その他の活動」で、うち26,079件が「報酬を得て事業又は事務に従事」する形態です。一方、ボランティアなどの「社会貢献活動」は11,506件にとどまりました。これは、公務員の副業が単なる社会貢献にとどまらず、個人の経済活動としても重要な位置を占めつつあることを示しています。営利目的などの副業数については、データ内の「その他の活動の許可件数」の内訳から確認できます。
※総行公第1号 - 令和2年1月10日「営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する調査(勤務状況等に関する附帯調査)の結果等について」
営利目的などの副業許可件数(平成30年度):
| 分類 | 説明 | 許可件数 |
|---|---|---|
| 類型Ⅰ | 営利企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員等を兼ねる | 1,926 |
| 類型Ⅱ | 自ら営利企業を営む | 2,158 |
| 類型Ⅲ | 報酬を得て事業又は事務に従事 | 26,079 |
| 合計 | 30,163 |
許可件数の推移
| 年度 | 総許可件数 | 社会貢献活動 | その他の活動 |
|---|---|---|---|
| H30 | 41,669 | 11,506 | 30,163 |
| H29 | 36,359 | 10,484 | 25,875 |
団体別の許可件数 (平成30年)
| 団体 | 許可件数 |
|---|---|
| 都道府県 | 7,183 |
| 指定都市 | 1,893 |
| 市区町村 | 32,593 |
許可基準の設定状況
| 設定状況 | 団体数 |
|---|---|
| 設定あり | 703 |
| 設定なし | 1,085 |
基準の公表状況
| 公表範囲 | 団体数 |
|---|---|
| 対内外に公表 | 353 |
| 庁内のみ公表 | 265 |
| 人事当局内のみ | 85 |
許可の有効期間
| 期間 | 団体数 |
|---|---|
| 1年以下 | 162 |
| 2年以下 | 41 |
| 2年超 | 497 |
なぜ兼業制度なのか?3倍近い早期離職、歯止めが効かない公務員の深刻な人材難

地方自治体は近年、深刻な人材難に直面しています。2024年総務省の調査※によると、地方公務員の採用試験の競争率は2013年度の8.2倍から2022年度には5.8倍まで急落しました。さらに、30歳未満の若手職員の離職者数は2013年から2022年の9年間で2.7倍に増加しています。国家公務員も同様に10年前から、総合職試験・一般職試験いずれも 約3割減少しており、地方公務員同様深刻な状況です。※この背景には、公務員組織特有の構造的な課題が存在します。
※社会の変革に対応した地方公務員制度のあり方に関する検討会給与分科会(第7回)事務局資料(令和6年7月31日)
※地方自治の担い手不足:若者の公務員離れ~3つのWHYと見えない解決の糸口早稲田大学・政治経済学術院教授 稲継裕昭(2026年2月26日)
※人事行政諮問会議 中間報告のポイント2024年5月
※事務局が実施したヒアリング等概要※2024年7月10日更新
①過重な業務負担と人員不足
日本の自治体は、OECD諸国と比較して極めて少ない職員数で多様な業務を遂行しています。雇用者数に占める公務員の割合は、OECD平均の18.6%に対し、日本はわずか4.5%です。地方分権改革により業務は質量ともに増大していますが、職員数は長期的に減少傾向にあり、2023年の地方公務員数は274万人と、ピーク時(1994年)の328万人から16.5%も減少しています。
②硬直的な人事制度
多くの自治体では依然として年功序列的な昇進制度が主流で、若手職員のモチベーション低下や成長機会の不足につながっています。東京都を除く多くの自治体では、課長級への昇進が40代後半以降となるなど、若手の活躍の場が限られています。国家公務員においても、キャリアパスの硬直性や専門性の評価不足が課題となっています。
③メンタルヘルスの悪化
業務量の増加に伴い、長時間労働やメンタルヘルス不調者の増加が顕著です。精神疾患による長期病休者数は、20年前(2002年度)の4.2倍、25年前(1997年度)の8.7倍にまで増加しています。
このような危機的状況を打開する一つの方策として、各種人事制度の改定とともに副業・兼業制度の導入が注目されています。民間同様に下記の効果が期待されています。
国家公務員においても、現在の兼業規制を見直し、柔軟な制度が検討されています。※
※第4回 人事行政諮問会議事務局説明資料多様な属性の職員が生き生きと働き続けられる環境整備の在り方
※一般職の国家公務員の兼業について(Q&A集)令和6年6月内閣人事局・人事院
国家公務員の兼業制度見直しのポイント:
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自律的なキャリア形成支援: 現行制度では、営利企業への兼業は原則禁止されていますが、職員の自律的なキャリア形成や自己実現を支援するため、一定の条件下で営利企業への兼業を認める方向で検討されています。
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高スキル人材の共有促進: 官民における高スキル人材の共有を一層推進するため、専門性の高い分野での兼業を認める方向で議論が進んでいます。
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利益相反の防止: 兼業を認める際には、公務の公正性や信頼性を確保するため、利益相反の防止策を厳格に設ける必要があります。
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時間や場所の制約緩和: フレックスタイム制の拡充やテレワークの推進など、時間や場所の制約を緩和することで、兼業しやすい環境づくりも同時に進められています。
副業・兼業制度の効果
| 人材確保・定着の促進 | 多様な働き方を求める若手人材の獲得や、専門性の高い人材の確保。 |
|---|---|
| 個人のスキル向上と 本業時間外での自己実現 | 外部経験を通じた職員のスキルアップと視野拡大。 |
| 民間との交流促進 | 新たな発想や手法の行政への導入。公務の効率化。 |
| 職員の満足度向上 | 自己実現の機会提供によるモチベーション向上と離職防止。 |
| 組織の活性化 | 多様な経験を持つ職員による組織全体の創造性と問題解決能力の向上。 |
組織改善を阻むネガティブな年代別ギャップ・必要な上司の意識改革

令和7年度の「給与制度のアップデート」等、公務員組織が直面する深刻な人材難に対しては、抜本的な給与改善や兼業制度の刷新など、様々な対策が既に検討されています。公務員の兼業に関する市民調査でも、約7割が公務員の兼業について若手を中心に寛容な意見を示しています。
さらに、調査データに基づくと、公務員の副業に対する意識には年代別の格差が見られます。若手層は副業に対して比較的肯定的であり、特に20~30歳代では、積極的に副業を行うべきだという意見が25.0%に達しています。一方で、年齢層が上がるにつれて、副業に対する否定的な意見が増加し、60歳以上の層では42.8%が副業を行うべきではないと考えています。
それにもかかわらず、全体としては半数以上の公務員が一定の条件下で副業を肯定しており、市民の中でも公務員の副業に対する意識の変化が進んでいることが伺えます。
しかし、制度面での改善が進んでも、現場レベルでの課題は依然として存在し、特に副業・兼業にネガティブな意識をもつ上司や組織文化が深刻な問題となっています。
民間では従業員の副業を理由に上司のマネジメント行動がマイナスに変わった場合、従業員の転職意向が高まる事がパーソル総合研究所第二回 副業の実態・意識に関する定量調査で判明しています。
山形県内の自治体職員を対象としたアンケート調査「山形県内における公務員のパラレルキャリア(兼業)への意識に関するアンケート調査報告書」では、この問題を解説しています。
多くの職員が兼業に対して「後ろ向きなアドバイス」や「マイナスの言葉」を上司や同僚から受けたと報告しています。
特に若手職員は、業務外活動に対する周囲の目を気にしており、上司を含む職員の中には「業務外の活動にのめり込み本業を疎かにする!と言われる」といった批判的な声を上げる人もおり、「大学主催の研究会への参加打診をいただき、職場の上司に参加したい旨を相談したところ、業務が立て込んでいたこともあってか、後ろ向きなアドバイスしかいただけなかった」等、離職意識を促進させる上司や周囲のネガティブな行動の具体的な事例が掲載されています。
また、こうした上司のスタンスを受ける職場環境では副業の届け出や報告に関して、ネガティブなインセンティブをもたらす傾向にあり、副業希望者は疑心暗鬼になり申請を躊躇する可能性があります。
※従業員が安心して副業申請をおこなうための管理部門のスタンスとは
更に、管理者側が副業申請に対して軽率な対応をすることで兼業申請者と管理者が紛争に発展する事例も発生しています。この訴訟では350名以上の賛同者が集まり100万円以上の訴訟費用が集まりました。
健全な副業報告や申請を阻害する要因になるため、人材育成・組織ガバナンス共にリスクを高める行動につながります
まとめ:公務員組織における副業・兼業の必要性と課題

公務員組織も民間企業同様、深刻な人材消失の影響を受けており、柔軟な働き方の導入が急務となっています。データが示すように、公務員の副業・兼業許可件数は増加傾向にあり、その中でも営利目的の活動が72%を占めています。これは、公務員の副業が単なる社会貢献にとどまらず、個人の経済活動としても重要な位置を占めつつあることを示しています。
一方、アンケート調査では、多くの職員が兼業に対して「後ろ向きなアドバイス」や「マイナスの言葉」を上司や同僚から受けたと報告しています。
このような組織文化は、職員の副業・兼業への意欲を削ぐだけでなく、離職意識を高める可能性が高いです。
さらに、健全な副業報告や申請を阻害し、人材育成やガバナンスにもリスクをもたらす可能性があります。副業・兼業制度の導入にあたっては、制度面の整備だけでなく、組織文化の変革や上司の意識改革が不可欠です。同時に、副業・兼業に伴うリスクも適切に管理する必要があります。
次の記事では、公務員の副業・兼業に関する具体的なリスクと、それらを回避するための対策について詳しく解説します。
執筆者
小林大介 シニアリスクリサーチャー ISO30414リードコンサルタント 株式会社フクスケ代表VOYAGEGROUP(現CARTA HOLDINGS)新卒入社。株式会社サポーターズの立ち上げに関わる。同社で支社長経験後、副業経由でVTuber事業を手掛けるスタートアップにHRマネージャーとして転職。組織急拡大の中、ニューリスクを複数経験。2019年7月に株式会社フクスケを...