はじめに2024年度の副業ガイドライン見直しに向けて、内閣府の「働き方・人への投資ワーキング・グループ」で「副業円滑化への規制改革推進会議」が2023年12月5日に開催されました。本記事では、会議で議論された副業制度の課題、特に二重雇用時の割増賃金支払いと労働時間通算について解説します。この会議内では現状の労働基準法内の通算規定が企業による副業者の正式雇用を難しくしている現状が指摘されています。特に、雇用型での副業を希望する従業員が二重雇用時の副業使用者による割増賃金支払いと本業先での労働時間通算される運用は、副業者を真正面に雇用することを困難にし、新たな問題の温床化しているという問題です。本編はYoutubeで公開されており、下記URLより視聴が可能です【LIVE配信】第3回 規制改革推進会議 働き方・人への投資ワーキング・グループ※2024年9月19日に公開された日本経済新聞の報道によると、副業を促進するための労働ルール見直しに取り組むため、雇用型で働く会社員の副業者の通算管理ルールの廃止を2026年以降に変更する可能性がある旨が報道されました。副業促進へ企業負担軽く 労働時間の管理ルール見直し【日本経済新聞イブニングスクープ】有識者による副業・兼業を取り巻く課題会議内では2018年のモデル就業規則での副業規約の改定から、年々副業を容認して副業者者を送り出す会社が増えている中、副業者を受け入れている企業が増加しておらず、副業意向がある副業者が副業実施に繋がらない構造的な課題が発生しています。中でも副業者への労働者性の判断基準の曖昧さや労務管理の煩雑さや割増賃金負担が副業使用者側で大きな課題として上がっています。労働時間通算への企業の根強い抵抗による偽装請負の温床化労働時間通算制度は、副業者の健康管理を目的としていますが、一方のところ副業促進の最大の障害となっています。企業の割増賃金支払いへの抵抗感も強く、結果として非雇用型(業務委託など)の副業のみを認める企業が増加し、偽装請負のリスクを高めています。更に別の問題として労働時間通算を割けるために、送り出し方の本業先が非雇用型(業務委託など)限定で副業を承認することで、副業者に対する副業の偽装請負などの新たな問題の温床化になり労働者保護を目的とした労働時間通算施策がむしろ労働者保護に繋がらない状況を産んでいるのではないかという現状の課題を見直す必要性を問う意見が有識者から出た。また、上場企業内でも雇用型の承認、非承認や管理方法にはバラつきが発生しており各社手探りかつ、制度設計と運用への苦労が耐えない状況が伺えた。副業・兼業の運用に対するヒアリング結果課題に対する厚生労働省との規制撤廃にむけた協議割増賃金の支払いは、企業側のコスト負担増につながり、一方で雇用形態を偽装請負にしてしまう状況を生み出しています。また、労働時間通算は、副業者の健康管理上必要なものである一方で、管理が煩雑という問題があります。このような課題を解決するため、有識者から厚生労働省に「割増賃金の削減による労働時間通算の簡素化」の提案がされました。これが採用されれば、企業側の負担軽減と副業者を使用するハードルの低減が見込まれ、副業者の増加が見込まれると提言されています。具体的な改定内容はまだ明らかにされていませんが、この会議の内容を踏まえると、人事部門は副業ガイドラインの見直しに備える必要性が高まる事が予想されます。具体的な改定内容はまだ明らかではありませんが、人事部門は今後の副業ガイドライン見直しに備える必要があります。各有識者や政府の見解を踏まえ、副業制度の見直しや必要な準備を進めることが求められます。厚生労働省と有識者の協議点合わせて整備が進められる在職中の競業化問題第5回 働き方・人への投資ワーキング・グループ 議事次第また、副業・兼業の規制改革では副業の推進で発生する、在職中の競業化についても同時並行で議論が進んでいます。在職中の競業避止義務は、労働契約法3条4項に基づく誠実義務の一環として、特別な合意や就業規則がなくても信義則上当然に発生するものとされています。しかし、副業・兼業の促進が政策的に推進される中で、在職中の競業についても一定の整理が必要とされています。具体的には、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を踏まえ、競業避止義務の類型化が検討されています。在職中の競業避止義務①競業他社での現実の就労。②競業他社の設立+事業活動。③競業他社にて会社の顧客・取引先を奪取/会社の秘密情報を利用。協立物産事件・東京地判平成 11・5・28 判時 1727 号 108 頁ソクハイ事件・東京地判平成 22・4・28 労判 1010 号 25 頁Z 社事件・名古屋地判令和 5・9・23 労経速 2535 号 13 頁④競業他社の利益を図る行為(利益相反行為)。ヒューマントラスト事件・東京地判平成 24・3・13 労判 1050 号 48 頁Y デザイン事件・東京地判令和 4・11・25 ジャーナル 136 号 44 頁⑤従業員の引抜き・転職の勧誘。ラクソン等事件・東京地判平成 3・2・25 労判 588 号 74 頁スタッフメイト南九州元従業員ほか事件・宮崎地都城支部判令和 3・4・16 労判 1260 号 34 頁(引用:競業避止義務:規制改革会議 WG 同志社大学法学部・大学院法学研究科教授土田道夫氏)競業避止義務として妥当なケースとしては、競業他社での現実の就労、競業他社の設立と事業活動、会社の顧客・取引先の奪取や秘密情報の利用、競業他社の利益を図る行為、従業員の引抜きや転職の勧誘などが挙げられています。これらのケースについては、裁判例を整理・紹介し、明確に禁止されるべきことを示す方向で検討が進んでいます。一方、競業避止義務として妥当でないケースも明確化されつつあります。例えば、競業会社の設立を企図しても未だ準備行為にとどまる場合や、前使用者の従業員を勧誘したものの、従業員が自発的に退職したにすぎない場合などが挙げられています。これらの整理を通じて、在職中の競業避止義務の適正化を図りつつ、労働者の副業・兼業の機会を不当に制限しないバランスの取れた指針の策定が目指されています。政府による法人副業制度による過度な副業制限の抑止へ言及令和6年11月12日に開催された政府の規制改革推進会議内の賃金向上、人手不足対応に関する会議で、法人の副業制度が過度に従業員の副業・兼業を制限している課題があげられました。追加の就業を希望する280万人いる一方、追加就業を希望しているが実施できない理由として会社都合の勤務制度52.8%、年収の壁など制度上の問題が11.8%になった。会議内では「副業・兼業の円滑化が進めば、個人にとっては手取りが増加し、リスキリングにもつながっていきます。」「副業・兼業につきまして、企業が従業員の副業・兼業を過度に制限してしまう実態があるという指摘を踏まえ、ルールの明確化を図るなどの課題を掲げています。」という現状の副業制度への期待と課題が言及された。可能な限り早期に実現する項目として、法人による過度な競業避止義務の抑制、偽装フリーランスの防止があげられた。副業者を雇用する際の割増賃金の通算撤廃含め、政府によるさらなる解釈変更が準備されている。第21回規制改革推進会議令和6年11月12日(火)まとめ2024年度の副業ガイドライン見直しに向け、労働時間通算や企業側の制度改定が重要なテーマとなっています。労務面での負担軽減が期待される一方、競業避止や情報漏洩などのリスクは依然として注意が必要です。副業者の増加に伴い、制度運用者には引き続き慎重な対応が求められます。一方、労働時間通算や割増賃金など、労働安全衛生が解決された場合も、本質的なリスクとして競業避止や情報漏えいなどのリスクは以前として注意が必要という課題にも言及され、副業者が増加する中では引き続き制度運用者へ求められる課題は残るが、労務面での一部負担の軽減につながる可能性が見えています。第3回 働き方・人への投資ワーキング・グループ 議事次第第5回 働き方・人への投資ワーキング・グループ 議事次第