2022年7月1日厚生労働省が発行する副業ガイドラインが改定されました。このガイドラインは働き方改革関連法案による企業への副業解禁につながった重要ガイドラインであり、2018年移行も毎年細かな修正が密かに行われています。今回の改定以前に厚労省ガイドラインは大きく3つの実務面での注意事項が追記されました。担当者と副業者双方を悩ませる副業者対応に関する注意事項が合計900文字近くの記載量が増えました。副業制度に関わる企業制度担当者・経営者、副業を実施されている副業者向けに変更点をまとめて解説します。過度な副業制限に関する企業への注意1つ目は企業と制度担当者に向けた、副業・兼業制限への注意文が大幅追加されました。副業禁止企業には耳が痛い話ですが、就業時間外で行う従業員の副業を就業規則で合理性なく一律禁止する事は通説的にできません。”当社の許可を得た場合を除いては報酬の有無に関わらず、他の業務に従事し営利事業を営んではならない”“会社の許可なく、他社に就業した場合は懲戒解雇に処す”上記のような記載は実質、副業許可制に該当し既に副業解禁状態にあります。今回のガイドラインは上記、使用者有利な誤解の誘発や威圧"懲戒解雇など"による制限を招くダークパターン系の副業制限を注意する記述が合計900字近くガイドラインに追加されました。副業・兼業に係る相談、自己申告等を行ったことにより不利益な取扱いをすることはできません。この「副業・兼業」については、他の会社等に雇用される形での副業・兼業のほか、事業主となって行うものや、請負・委託・準委任契約により行うものも含むことに留意が必要です。なお、労働契約であるか否かは実態に基づいて判断されます。労基法の労働時間規制、安衛法の安全衛生規制等を潜脱するような形態や、合理的な理由なく労働条件等を労働者の不利益に変更するような形態で行われる副業・兼業は、認められず、違法な偽装請負の場合や、請負であるかのような契約としているが実態は労働契約だと認められる場合等においては、就労の実態に応じて、労基法等の規定の適用を受けることになります。(令和3年4月モデル就業規則第14章副業・兼業追記文章)個人時間で行う副業を合理性なく会社が優位的に制限することへの注意が過去の裁判例を事例に再三注意がでています。会社は従業員の副業を優位的に禁止できるという過度な誤解から180度の認識転換を具体的に促す記述がされました。加えて、偽装請負など会社を通じた副業者への注意喚起まで記載されています。実際、上記の前提が管理部門に定着せず副業者の上司や人事、経営が会社を守るために過度に副業者に接してしまう問題が残念ながら非常に多いです。労使間での紛争やハラスメント問題にも発展しかえって会社側のリスクを拡大させる事になるため注意が必要です。そうした実情を鑑みた注意文の大幅追加と私は読み取っています。特に「労働者の不利益」の言及は初の記載になり、従業員個人時間の自由への配慮が非常に高められています。労働時間の通算・安全配慮に関する注意副業先での雇用契約、いわゆる二重雇用で事前に副業者と本業先が認識しておく範囲のガイドラインが追記されました。二重雇用に関しては開始前と後で運用上注意すべき、内容が異なります。今回は開始前の安全配慮や通算開始に係る本業先が最低限抑える内容を具体的にしめしたものでした。運用の詳細は下記記載の管理モデルをご確認くださいhttps://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf▼制度運用者向け実際の運用方法に関して、上記文章を読んだだけでは全て理解しきる事は不可能です。必ず所定の労働局の担当者に電話確認をして実際の運用に関して電話でのレクチャーをうける事をおすすめします。本業先主語での休日と副業者主語の休日の取り扱いなど、副業経験者でも理解が及ばない部分が多く非常に難易度が高いので、ぜひ電話窓口で解説を聞く事をおすすめします。筆者も毎度電話で優しくレクチャーをうけています。https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/home.html届出してない隠れ副業者への対処注意最後に、副業を本業先に届出していない副業者への対応です。なお、就業規則において、副業・兼業を行うことや、その内容・労働時間等についての労働者からの届出を定めていた場合に、労働者から届出がなされずに副業・兼業が行われたことを把握したときについては、まず、労働者に届出を求め、本条第2項各号で規定したような場合に該当しないかの確認や、該当しない場合であって労働時間の通算の対象となるときにおいては、他の使用者の事業場における所定労働時間等の確認を行い、適切に、労働時間の管理を行いつつ、労働者が副業・兼業を行うことができるようにすることが望ましいです。副業制度を開始すると、基本届出しない方々が一定います。そうした副業者への配慮と会社側からの副業を届出してない事により過度な処分への制限が追記されました。過去の裁判例でも、本業への具体的な損害や影響がないにも関わらず届出していない事を理由に懲戒処分を行った会社側の不法行為が認められ懲戒対応の取り消し、と会社への賠償が認められています。会社、副業者双方により配慮した記述になっています。▼副業を無届けの副業者の方もし、所属会社や上司が副業に関する認識が薄く誤解している場合、労使間のトラブルに発展しやすいので、上記ガイドラインを事前に説明してみましょう。副業者の方にとっては、不安材料が少なくなる内容になっています。まとめ2018年の副業解禁から4年がたち10カ年の指標で掲げている2030年の全企業副業解禁にむけて、より踏み込んだガイドラインの変更になりました。現状企業の8割近くが副業制限や禁止をうたっており、今回の変更でより副業制限への認知が進む事が予想されます。一方で下記のよう副業に不慣れな企業の内部担当者による誤った制度設計と運用によるダークパターン化が従業員との紛争の火種になりやすくなっていくと考えられます。執筆者プロフィール小林大介 シニアリスクリサーチャー ISO30414リードコンサルタント 株式会社フクスケ代表株式会社VOYAGEGROUP(現CARTA HOLDINGS)新卒入社。株式会社サポーターズの立ち上げに関わる。同社で支社長経験後、副業経由でVTuber事業を手掛けるスタートアップにHRマネージャーとして転職。組織急拡大の中、ニューリスクを複数経験。2019年7月に株式会社フクスケを創業。