副業事故は会社の責任?担当者必読!大企業の副業制度導入完全ガイド

副業事故の現状と問題点

副業の自由化が進む一方で、新たな問題として「副業事故」が浮上し、その責任の所在や対策が求められています。副業を許可することによって生じるリスク管理の課題、本業と副業の間で起こり得る利益相反問題、そして企業自体の事業形態の変化や副業を持った従業員の異動等による新たなリスク要因の発生など、企業側は副業前提時代で発生するリスクを管理する上で多くの問題を抱えています。本記事では、これらの課題を詳細に解説し、大企業が副業制度を導入する際のガイドラインを提供します。すべての企業が副業事故に備え、実際の対策を講じるために必要な情報です。
副業制度がないリスク
副業制度が無いことによる隠れ副業者の増加

副業していることの本業の勤め先への通知(本業の就業形態別、単位:%)
副業していることの本業の勤め先への通知(本業の勤め先での副業の禁止状況別、単位:%)
大企業が副業制度を導入する必要性は、今や従業員の権利保護だけでなく、企業のリスク管理の観点からも強く求められています。労働政策研究・研修機構の最新の調査によれば、本業の勤め先で副業が禁止されている場合、その中の72.5%の人々が副業を本業先に「知らせていない」との結果が明らかになっています。
このデータは、副業制度が明確でない場合や、副業を一律に禁止する制度下で、従業員が隠れて副業を行うリスクが高まっていることを示唆しています。このような状況は、情報漏洩やガバナンス不全のリスクを高める可能性があります。
また、従業員の本業時間外の活動を過度に制限することは、職業選択の自由の侵害とも捉えられるため、企業は副業制度の導入を真剣に検討すべきです。副業制度の導入は、企業のリスクマネージメントの一環としての役割を果たすだけでなく、従業員の心理的安全性を高め、自律的なキャリア形成を後押しすることで、企業全体の生産性向上と持続的な発展にも寄与します。
【グラフ元データ】副業していることの本業の勤め先への通知(本業の就業形態別、単位:%)
| 本業の就業形態 | n | 知らせている | 正式な届け出などはしていないが、上司や同僚は知っている | 知らせていない | | --- | --- | --- | --- | --- | | 計 | 8,984 | 38.7% | 23.8% | 37.5% | | 正社員 | 4,327 | 33.5% | 23.0% | 43.5% | | 非正社員 | 4,657 | 43.6% | 24.5% | 31.9% |
副業していることの本業の勤め先への通知(本業の勤め先での副業の禁止状況別、単位:%)
| 本業の勤め先での副業の禁止状況 | n | 知らせている | 正式な届け出などはしていないが、上司や同僚は知っている | 知らせていない | | --- | --- | --- | --- | --- | | 禁止されている | 990 | 12.9% | 14.5% | 72.5% | | 禁止されていない | 6,609 | 48.8% | 26.6% | 24.5% | | わからない | 1,385 | 9.0% | 16.6% | 74.4% |
副業事故とは?
副業事故の定義の確認
「副業事故」とは、厚生労働省モデル就業規則内副業規定で会社が制限を認められている、本業先の不利益につながる従業員の副業を原因としたトラブル・事故です。
主業務以外の時間で行われる従業員の個人的な営利活動である副業が原因で発生する予期せぬ事故で、これによって従業員自身や企業が被害を受けることを指します。労使間で何度も裁判が発生している、内部不正や内部規定違反など内容によっては逮捕者まででる深刻なトラブルです。
2018年厚労省モデル就業規則が過去の判例の考え方と矛盾しない形で、副業規定が改定されることになり、原則と例外が180度逆転することにとました。
合わせて、副業が一般化するにつれ、これらの新たなリスクが浮上してきました。
実際に、これらの事例に基づく労使間の裁判例が国内外で複数存在し、厚生労働省のモデル就業規則でも、該当するような問題が発生した際、企業は従業員の副業を制限できると明記されています【詳細はこちら:副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和2年9月改定)厚生労働省】
副業事故の具体事例、月350時間以上の労働時間を抱える副業者が、過労によるうつ病を発症
副業事故として、過去の労使間での裁判例から以下のような4つのケースが想定されています。
①副業による労務提供上の支障
月350時間以上の労働時間を抱える副業者が、過労によるうつ病を発症する事例があります。本業の職務遂行が困難になる程度の健康被害を引き起こす副業は、副業事故の一種と認識されます(参考:労働時間「月350時間超」副業による過労でうつ病に。副業事故で労務不能になる前にやるべき対応策)
②本業先の企業秘密が漏洩
副業の活動中に、本業で扱う機密情報が外部に漏れる事例もあります。また会社で管理されている資産としての認識がなく秘密情報を利用し問題となるケースが多いです。
(参考:副業による情報漏洩が発生する6つの理由と対策必須のセキュリティ教育 )
③従業員の副業により会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊された場合
副業先が反社会的勢力であると判明し、本業先がその事実を知った結果、信用を失い懲戒処分となるケースも存在します(参考:「副業先が反社会的勢力だった」就業規則違反で懲戒処分に。副業にも求められる反社チェック。)
④従業員の副業が本業の競業になり、企業の利益を害する
例えば、本業の顧客を副業に流用し、本業先の利益を侵害する事例等があります。
副業が注目される背景
「働き方改革」と副業の関連性

2017年に発布された1億総活躍社会を目的として実施された「働き方改革」では2027年までに「希望者は原則として副業・兼業を行うことができる社会にする。」指標を元に実行されており、テレワークや残業規制とともに、従業員個人が本業先に頼らず自律的に起業やオープンイノベーション、キャリア開発ができるよう政府主導で推奨されています。

(参考:柔軟な働き方がしやすい環境整備
⑨ 副業・兼業の推進に向けたガイドライン策定やモデル就業規則改定などの環境整備)
副業事故を引き起こす具体的な要素

就業時間外で副業がしやすい環境が増える一方で、それに伴うトラブルも増えています。一般的には副業は会社からの許可を得て行うことが推奨されています。しかし、会社に内緒で行われ、トラブルになるケースも少なくありません。特に、SNSの普及により、副業が露見し、それが原因で会社全体が巻き込まれるケースも増えています。
また、副業事故は、フリーランスによくあるトラブルも発生します。例えば契約書を結ばないまま取引を進め、その結果、金銭的なトラブルに発展するケースです。これは、副業が「事業」という意識が薄く、事前の準備や対策が疎かにされがちであることが原因とされています。
副業の手軽さは、安定した本業を持ちつつ自己実現やスキルアップを目指す上では大きな利点です。しかし、その手軽さが逆に仕事としての意識を低下させ、結果的にトラブルを引き起こす可能性があります。
会社から支給された備品や情報資産をそのまま副業で利用してしまうなど、情報資産に関する教育が行き届いていない職場では横領や窃盗などのモラルハザードの原因になります。
副業で利用して問題になりやすい本業情報資産
副業事故は会社の責任なのか?
会社が副業事故に対して負うべき責任

副業で発生した事故やトラブルは、原則として副業者個人が責任を負うことになります。しかし、特定の状況下では、会社の責任も問われることがあります。
例えば、本業先が管理する顧客情報やその他の第三者の情報資産を、従業員が副業で不適切に利用した場合、このような情報の管理責任は会社にあります。そのため、情報の不適切な利用が発覚した場合、会社がその責任を問われることになる可能性があります。また副業先の守秘情報を本業先に持ち込んで利用していた場合も、ケースにより会社の管理責任が問われる可能性があります。従業員個人の副業に対して過度に本業への貢献を求めすぎると、上記のような危険性が高まります。
また、副業による過重労働が原因で事故が発生した場合、会社が適切な安全配慮を怠ったと判断されれば、会社の責任も問われることとなります。
さらに、従業員がコンプライアンス上問題のある副業を行っていた場合など、報道される際は所属の会社名もセットで報道されるため会社のブランド毀損につながります。
このように、副業事故に対する会社の責任は、具体的な状況や事例によりますが知名度が高い会社ほど、副業に関する問題報道は取り上げられやすいです。
法律や規約での取り扱い

一方、会社が正当な理由なく副業を制限した場合、それが労使問題に発展する可能性があります。その結果、会社側の不法行為が認められ、副業を希望する従業員に慰謝料を支払う必要が生じるケースも存在します。これは会社側のリスクを低減する目的で行った行動が返って大きく問題を拡大させてしまった事例です。
「マンナ運輸事件」(京都地判平成24年7月13日)という裁判例があります。この事件では、運送会社が準社員からのアルバイト許可申請を4度にわたって不許可にしたことが問題となりました。特に後2回については、不許可の理由が認められず、不法行為に基づく損害賠償請求(慰謝料のみ)が一部認容された事例となっています(出典:副業・兼業に関する裁判例 厚生労働省)
会社の正当性を欠く対応は会社全体のリスクを拡大させ、法的なトラブルを引き起こす可能性があることを理解しなければなりません。会社側が一律に副業を禁止することは認められておらず、副業を管理する際には、適切な理由と根拠をもって対応することが求められます。
本業先の対応に責任が問われた副業に関する裁判例
(出典:副業・兼業に関する裁判例 厚生労働省)
大企業での副業制度導入の必要性
人手不足時代と逆行する副業一律禁止を提示するリスク

副業を一律に禁止する企業の方針は、採用や従業員のエンゲージメントに必ずしも良い影響を与えていないというデータが存在します。また、法令的にも一律禁止とするべきものではないことが明らかになっております。
「副業(社外での活動)禁止の企業は時代遅れ!?」という調査(出典:特定非営利活動法人 二枚目の名刺)によれば、副業を認めない企業に魅力を感じる社員は全体のわずか7.4%に過ぎません。それに対し、「魅力を感じない」と回答した社員は全体の56.5%と、過半数を超える結果となっています。
また、「第二回副業の実態・意識に関する定量調査」(出典:パーソル総合研究所)によると、企業が副業を容認する理由として「禁止するべきものではないので」が2018年から2021年にかけての副業の容認理由の増加理由1位となっています。一方、「企業イメージの向上のため」「社会貢献のため」「転職者再就職支援のため」などの人材育成やブランディング目的の理由は減少傾向にあります。
これらの結果から、副業を一律に禁止する企業の方針は、新たな従業員の採用や現在の従業員のエンゲージメント向上に対する障壁となり得ることが示唆されます。また、前述した「マンナ運輸事件」などの判例からも、副業を一律に禁止することが法令的に問題となる可能性も指摘されています。
以上を踏まえると、企業は副業を一律禁止するのではなく、各従業員の状況を考慮した上で適切に管理し、対応することが求められます。
副業を許可したことで生じる課題

副業許可後、企業は継続的な従業員のコンプライアンス確保とガバナンス維持が必要になります。具体的には、副業が会社の許可した範囲を越える活動へと展開し、事故を引き起こすケースが見受けられます。
特に注意すべきなのは、本業先の事業形態が変化し、それにより副業内容が利益相反を引き起こす可能性が出てくることや、本業先と個人の切り分けができず、気づかぬうちに本業資産を副業でも利用してしまう事です。また、従業員自身が異動等で業務内容が変わると、新たに利益相反を引き起こす可能性があります。これらの状況変化を見逃さず、適時に副業内容の確認を行うことが求められます。
これらの問題を防ぐため、1年に1度の定期的な確認や監査など副業許可後も定期的にその内容を確認し、企業の利益と従業員の利益相反を起こさない適切なガバナンス体制を整備することが必要です。
また、従業員一人ひとりが自身の行動が会社全体に及ぼす影響を理解し、高いコンプライアンス意識を持つことも重要です。
これらの課題対策を講じることで、副業と本業が共存し、企業全体が成長する環境を作り出すことができます。
大企業の副業制度導入完全ガイド
副業制度導入を検討する大企業がまず確認すべきは、次の3つの前提条件です。
①現行の就業規則の確認
副業一律禁止の記載がないか再確認しましょう。“社の許可を得た場合を除き、報酬の有無に関わらず他の業務に従事してはならない”や”会社の許可なく他社に就業した場合は懲戒解雇に処する”といった記述がある場合には、現行の世の流れとのギャップを確認しましょう。
②経営者・役職者・管理部門の法解釈の一致・理解
経営者層が副業制度に対する誤解を持っていると、制度導入がうまく進まないことがあります。副業制度についての裁判例や統計調査を基にした説明を行い、一律禁止が有効である誤解を解くことが重要です。
③副業制度改定の目的の明確化
副業制度導入の目的を明確にしましょう。従業員の副業に対して会社への利益をもたらすことを過度に期待すると、制度が申請されず逆に隠れた副業者が増え、労使間の問題や不適切な情報の持ち込み、本業外のプライバシー侵害などの新たなリスクが発生する可能性があります。会社側も従業員の個人時間への明確な配慮が必要です。
具体的な導入手順とその内容
副業制度導入に向けての具体的な手順とその内容は以下の通りです。
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制限する副業内容の確認:副業内容に何を制限するかを明確にする必要があります。これには、会社側が制限を許可されている4つの項目(過重労働、情報漏えい、名誉・信用毀損、競業化)を基準に会社の事業を踏まえた上で制限すべき副業範囲を特定します。副業の種類が膨大なため、網羅仕切ることは不可能なためこの副業は推奨、この副業はNGなどできる業務を個別に限定するルールベースでの策定を避け、希望者からの届出内容を踏まえながら段階的に作成することが推奨されます。
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届出フローとチェック体制の設計:副業届出のフローとチェック体制を確立します。上司によるチェックは、マネージメントに問題がある場合、上司が本業への影響を過度に気にして、不適切な対応を行うなどのハラスメント問題を引き起こす可能性もあるため、専任の管理部門スタッフが行うことを推奨します。大企業であれば、この管理部門に専任スタッフを配置することが望ましいです。
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社内への案内と事前教育:副業制度が導入されたら、社内全体に対してその内容を周知します。また、本業先、副業先で事故や犯罪に発展しやすい情報資産の取り扱いにおける最低限のコンプライアンス教育。モデル就業規則における会社が制限を行う範囲の説明も合わせて行いましょう。
以上のステップを踏むことで、副業制度の適切な導入と運用が可能となります。
導入後のフォロー方法と持続的運用
副業制度が導入されると、社内に一定数の副業者が出現します。この副業者の人数は企業規模や制度設定により異なりますが、一般的には従業員数の最大10%から1%程度が副業を行っていることが考えられます。しかし、副業者の数が少なすぎる場合、企業としての制度設計に問題がある可能性を示唆しています。このようなケースでは、副業制度の再設計を検討しましょう。
また、制度導入後、その運用状況を定期的に監査し、リスク診断を行うことが重要です。特に、企業として許可しない副業が発生します。その対応や説明を従業員に対して丁寧に行うことが求められます。対応が適切でないと、副業を強く希望する従業員から制度担当者へのハラスメントにつながることもあります。そのため、副業制度の取り扱いや対応は非常に慎重に行う必要があります。下記のデータでは副業制度に関わる担当者にも非常に心理的プレッシャーがかかる事がデータで判明しています。
従業員の副業をチェック確認する際ストレスをかんじますか?【副業制度担当者】(n=276)
過去に副業・兼業に関するトラブルや逆ハラスメントなどヒヤリハットを経験したことはありますか?【ストレスを感じていると回答した制度担当者】(n=224)
副業制度は作ったらお終いではなく、永続的に運用が必要になる不可逆性が高い制度になります。禁止に戻す事ができない制度のため、制度設計の初期もそうですが、プレッシャーも高く一定の専門性も求められ続けるため、管理者の異動も発生しやすく引き継ぎ体制などより運用能力が求められ続ける種の制度になります。
人的資本経営とのつながりと開示
また、上場企業であれば有価証券報告書内での人的資本開示が義務付けられています。会社の人事戦略と共に就労環境改善や人材戦略の1部として副業制度の有無や人数を開示する企業も増加傾向にあります。先行する企業の開示事例を参考に開示をおこないましょう。2022年統合報告書を発行した上場企業は884社、うち101社(11%)が報告書内で社外副業制度の有無を明記し、うち副業者数まで開示している会社が26社まで拡大しています。
2022年統合報告書における社外副業制度の開示状況
副業制度導入の重要性の再確認
会社が副業制度を導入することは、副業一律禁止という極端な制約による従業員の心理的負担を解消することに繋がります。しかし、その導入は、会社の画一的なガバナンスやコンプライアンスの見直しを必要とします。
副業制度導入のメリット
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社員の心理的負担軽減
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労働規範のフレキシビリティ
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社員の就労環境改善
会社は、副業を通じて本業へのマイナスの影響を最小限に抑えるため、健康管理や安全衛生のチェック、また、副業内容に応じた会社と従業員双方の適切な利益保護を行うことで、既存のガバナンスやコンプライアンスを刷新する機会になります。
また、社会情勢の変化に対応した副業制度の導入は、社員の働き方自体を改善する。社員一人ひとりがより自由に働くことを選択できるようになり、多様な働き方やキャリア形成が可能になります。
一人ひとりが副業事故について理解し、対策を講じることの重要性
副業事故は、個々の従業員だけでなく、組織全体にも大きな影響を及ぼす可能性があります。リスクを理解し、組織として適切な対策を講じていただくことが求められます。
事実、副業内容によっては本職や副業先とのコンプライアンス問題により逮捕者が出る例もあります。副業する個人一人ひとりが企業規定や法律に違反していないか、意識し続ける事が事故防止に理想的な状態です。
副業事故を防ぐためには、会社の行動が最初の一歩となります。副業を行う際には、組織の責任と規則遵守が重要であるという認識を強く持っていただき、このような理解と危機感こそが、副業事故を未然に防ぐ鍵になります。
執筆者
小林大介 シニアリスクリサーチャー ISO30414リードコンサルタント 株式会社フクスケ代表VOYAGEGROUP(現CARTA HOLDINGS)新卒入社。株式会社サポーターズの立ち上げに関わる。同社で支社長経験後、副業経由でVTuber事業を手掛けるスタートアップにHRマネージャーとして転職。組織急拡大の中、ニューリスクを複数経験。2019年7月に株式会社フクスケを...