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2026/9/29

業界横断 副業コンプライアンス調査 2026 副業「承認後」の情報持出・競業化リスク分析【16,139名調査】

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副業者(n=8,579)・本業先の副業制度管理者(n=3,763)・副業発注者(n=3,797)の三者合計16,139名を対象とした大規模調査をもとに、副業を「承認したあと」に発生する情報持出・競業化リスクを分析しました。情報を持ち出した副業者の72.1%は正式に届出済みであり、リスクは制度の外側ではなく“内側”で発生しています。本レポートでは、届出・承認だけでは止められないリスクの構造と、承認後の変化を検知するために必要な制度設計を可視化します。


サマリ

「確認なき承認」が、競争優位を支える情報の外部移転を開く

情報持出経験者の72.1%は正式届出済みで、61.3%が本業の機密情報の副業利用を自認しています。申請と実態にズレがある層の情報持出率は34.5%と、ズレがない層の10.2倍に達します。一方、審査に必要な4項目が揃う申請は3%前後にすぎず、形式的な届出・承認だけでは、承認後の情報利用や実態変化を統制できず、「競争優位の外部移転」を見逃すリスクが残ります。

サマリ:「確認なき承認」が開く、競争優位を支える情報の外部移転

① 情報漏洩 ―― 本業先の情報を持ち出した副業者の7割は「正式届出済み」

区分割合
正式届出済み72.1%
その他(未届出)27.9%

持出は無届けの層ではなく、制度の“内側”で発生しています。61.3%は機密情報の利用を自認しており、うっかりではありません。

② 競業 ―― 競業該当者の39.7%が情報持出にも該当

競業と情報持出は一定割合で同じ副業者に重複しています。制度あり層では、情報持出と競業が重なる層の85.5%が本業先に正式届出済みでした。

③ 申請と実態にズレがあると、情報持出率は10.2倍

区分情報持出率
申請と実態にズレあり(n=1,889)34.5%
申請と実態にズレなし(n=714)3.4%

危険なズレは「副業先名(エンドクライアント含む)」「競業/利益相反」「条件変更」の3つです。

ポイント:承認時の情報だけでは不十分。変更後の実態を継続確認する必要があります。

※出典:副業者調査 n=8,579(WB補正済み)。10.2倍は制度ありベース n=2,603(ズレあり n=1,889/ズレなし n=714)。詳細は各セクションの注記を参照。


調査概要

項目内容
調査名称業界横断 副業コンプライアンス調査 ―― 副業「承認後」の情報持出・競業化リスク分析 ――
調査内容調査① 情報漏洩リスク経験者実態調査 / 調査② 競業化リスク経験者実態調査 / 調査③ 申請ズレで発生するリスク
調査手法インターネット定量調査
調査時期2026年1月15日 〜 2026年1月24日
調査対象[居住地] 全国/[年齢] 20歳以上65歳以下/[性別] 男女
事前調査n=85,274
副業者調査n=8,579
副業制度管理者調査n=3,763
副業発注者調査n=3,797
集計方法令和2年国勢調査 就業状態等基本集計を元に、業種×性年代構成を補正(WB補正済み)
副業者定義キャンペーンやアンケート等でのポイント獲得以外で、本業以外に現金収入がある者
実施主体株式会社フクスケ

※本レポートの数値は、2026年1月24日時点の確定データを用いています。

調査概要


分析結果① 情報漏洩リスク経験者実態調査 ―― 情報を持ち出した副業者の7割は「届出済み」

章扉「情報漏洩リスク経験者実態調査」

情報持出経験者の72.1%は「届出済み」

情報持出経験者947人のうち、72.1%が副業を正式に届け出ており、非持出群の62.4%よりも届出済みの割合が高い結果となりました。持出経験者の多くが制度の内側にいたことから、届出を受け付けるだけでは十分ではなく、届出後も業務内容や情報利用の変化を継続的に確認する必要性が示されました。

情報持出経験者のうち、正式届出済みの割合(調査対象:情報持出経験者 n=947)

区分割合
正式届出済み72.1%
未届出27.9%

※参考:非持出群の届出済み割合 62.4%/副業者全体の情報持出経験率 14.2%

発覚した場合の処分は重い(持出経験者の処分経験)

処分経験率
配置転換・副業停止50.2%
文書注意35.6%
減給・出勤停止34.4%

事後の処分では、情報の流出は止められません。事前抑止・継続検知の設計が必要になります。

※出典:副業者調査 n=8,579(WB補正済み)。情報持出経験者 n=947。※「届出済み」は本人申告による正式届出の有無であり、承認・許可の有無とは区別しています。n は実数、割合はWB補正済み。

情報を持ち出した副業者の7割は「届出済み」

『うっかり』ではない ―― 6割が自認して機密情報を利用

情報持出経験者の61.3%が、本業の機密情報を副業で利用したと回答しました。本業の人脈利用は56.7%、無理をしてでも副業を受けるとの回答は59.4%で、いずれも非持出群を上回っています。持出しには、少なくとも一部、情報利用を自認した上での行動が含まれることが判明し、知識を知らせる研修だけでなく、ケースにより記録・契約・処分明示による抑止などの必要性が伺えます。

持出経験者 vs 非持出群(「あてはまる+ややあてはまる」)

項目持出経験者非持出群
本業の機密情報を副業利用61.3%22.6%
本業の人脈を副業利用56.7%29.4%
無理してでも副業を受ける59.4%38.3%
いずれ副業を本業にしたい58.5%27.7%

ポイント:持出は『知らなかった』ではなく、意図的・自覚的な行動として表れています。

研修で知らせるだけでは足りず、記録・契約・処分明示の抑止設計が求められます。

※出典:副業者調査 n=8,579(WB補正済み)。情報持出経験者 n=947/非持出群 n=7,632

『うっかり』ではない ―― 6割が自認して機密情報を利用

持出経験者の副業は「もう一つの本業」レベル

情報持出経験者に多く見られる副業の特徴を、非持出群と比較した際、持出群では、正社員・契約社員型の副業が57.1%、月20時間以上の副業が55.0%を占めています。また、コンサル・開発・マーケティング・SNS運用などの専門スキル系副業は、非持出群の2.8〜3.7倍でした。本業スキルの転用度や、副業への関与の深さを重点的に確認する必要性が示唆されます。

副業の特徴別 比較(調査対象:情報持出経験者 n=947/非持出群 n=7,632)

副業の特徴持出群非持出群差
雇用契約(正社員・契約社員型)57.1%22.7%+34.4pt
副業に月20時間以上55.0%40.0%+15.0pt
コンサル・顧問14.7%5.3%+9.4pt
開発・エンジニアリング15.4%4.5%+10.9pt
マーケティング戦略15.3%4.2%+11.1pt
SNS運用代行16.6%4.5%+12.1pt

専門スキル系副業の持出倍率(非持出群比)

副業内容倍率
SNS運用代行×3.7
マーケティング×3.6
開発×3.4
コンサル・顧問×2.8

持出リスクが高まる3つの条件は「雇用契約型」「長時間稼働」「専門スキル系」です。本業スキルを直接転用できる副業ほど、持出リスクが高く、「もう一つの本業」化しています。

※出典:副業者調査 n=8,579(WB補正済み)。情報持出経験者 n=947/非持出群 n=7,632

持出経験者の副業は「もう一つの本業」レベル

情報持出群に集中する属性

情報持出群に占める男性20代の割合は27.4%で、副業者全体の13.2%を大きく上回りました。また、正社員は80.3%(全体61.2%)、製造業は27.0%(同15.9%)、中・高所得者は9.0%(同5.6%)と、いずれも持出群で相対的に高い結果でした。属性だけで個人を判断するのではなく、追加確認の優先度を設定するためのシグナルとして活用できます。

性別×年代 構成比(持出群構成比 vs 全体)

区分持出群全体倍率
男性20代27.4%13.2%2.5x
男性30代18.6%14.0%1.4x
男性40代16.2%16.0%1.0x
男性50代7.3%10.6%0.7x
女性40代5.8%11.4%0.5x
女性50代2.2%9.7%0.2x

持出群の属性的特徴

属性持出群全体
正社員比率80.3%61.2%
製造業27.0%15.9%
中・高所得(1,500〜2,000万)9.0%5.6%

『お小遣い稼ぎ層』ではなく、「もう一つの本業」を目指す「20〜30代のキャリア中核層」が主役となっています。

※出典:副業者調査 n=8,579(WB補正済み)

情報持出群に集中する属性

副業先との「距離の近さ・組み込み度」が持出を誘発する

情報持出率と、副業先への組み込まれ方との関係を示したデータでは、副業者全体の持出率14.2%に対し、情報を成果物にしやすい副業では26.3%、正社員・契約社員型では29.4%、発注者からの指揮命令や社内ツール利用がある層では28.3%でした。さらに、副業先からの他社就労の制限や事前許可を求められている層では49.5%に達しています。情報の種類だけでなく、契約形態、指揮命令、専属性、副業先組織への組み込まれ方も審査する必要性が示されました。

条件別の情報持出率(副業者全体14.2%に対して)

条件情報持出率
情報成果物化しやすい副業内容26.3%
正社員・契約社員型の副業29.4%
発注者指示・時間場所指定・社内ツール利用28.3%
副業先からの就労制限・事前許可必須(顧問・役員就任など会社法が適用される関与も含む)49.5%
(参考)副業者全体14.2%

副業先からも制限や事前許可を受ける状態は、実質専属で、外部組織へ深く組み込まれた状態です。この層の持出率は約5割に達します。

補足背景|副業先から受ける他社への就労制限とは?

本業先とは別に、副業先から就労の制限をうける副業です。例えば役員就任などは、会社法上の忠実義務(副業先への専念)が本業への誠実義務と衝突する領域にあたります。顧問・役員型の深い関与層では持出率がさらに高まる傾向があり、就任時の利益相反審査が必要となります。

※出典:副業者調査 n=8,579(WB補正済み)。補足背景は顧問・役員型の小標本集計(n=47・未加重)に基づく傾向コメント(数値は参考にとどめ非掲載)

副業先との「距離の近さ・組み込み度」が持出を誘発する

情報持出リスクを見落とさない「重点確認シグナル」5つ

副業者調査と制度管理者調査を横断的に見ると、情報持出経験者には、属性・本業化意向・副業内容・本業の忙しさ・届出後管理に特徴が見られました。5つすべてに該当する人物像ではなく、それぞれが独立した確認シグナルです。該当者を問題視するのではなく、申請内容と現在の実態にズレがないかを追加確認するための入口として活用します。

優先度シグナル根拠
P1 最重要若年 男性20-30代持出経験者に占める男性20代の割合は27.4%。全体(13.2%)の2.5倍
P2 重要副業を本業にしたい意向が強い層持出経験者の58.5%が「副業を本業にしたい」と回答。非持出者は27.7%
P3 重要専門スキルを成果物として提供する副業持出経験者では、コンサル・開発・マーケティング・SNS運用が各15%前後
P4 注意本業の長時間労働と副業が重なる層本業が月180時間以上の層は、持出経験者で相対的に多い
P5 注意届出済みでも承認後の変化を追えていない層持出経験者の72.1%は届出済み。初回承認だけではリスクを防げない

属性だけで対象者を決めつけず、5つのシグナルを起点に、提供先・業務内容・成果物・本業情報の利用・稼働時間の変化を確認します。

※出典:副業者調査 n=8,579/副業制度管理者調査 n=3,763(いずれもWB補正済み)

情報持出リスクを見落とさない「重点確認シグナル」5つ


分析結果② 競業化リスク経験者実態調査 ―― 情報持出と競業は、同じ副業者の中で重なっている

章扉「競業化リスク経験者実態調査 ―― 情報持出と競業は、同じ副業者の中で重なっている」

競業該当者の39.7%が情報持出にも該当 ―― 複合リスクの重複を確認

競業該当者の39.7%が情報持出にも該当し、情報持出経験者の17.4%が競業にも該当しました。また、全副業者の2.5%が両項目に該当しています。

競業該当者の内訳(調査対象:競業該当者 n=420)

区分割合
競業のみ60.3%
情報持出+競業39.7%

別ベースで見た重複(調査対象:情報持出経験者 n=947/副業者全体 n=8,579)

区分割合
情報持出者のうち競業も該当17.4%
全副業者に占める両方の該当者2.5%

競業と情報持出は一定割合で同じ副業者に重複しています。別々に確認するだけでなく、本業情報が競業する副業で利用される可能性を『複合リスク』として確認する必要があります。

※出典:副業者調査 n=8,579、競業該当者(本業と競合・競業する副業を実施)n=420、情報持出経験者 n=947、両方該当 n=143(n は実数、割合はWB補正済み) ※注記:情報持出と競業の重複は、同一回答者が両項目に該当したことを示します。同一事案での同時発生、情報の提供先、因果関係を示すものではありません。

競業該当者の39.7%が情報持出にも該当 ―― 複合リスクの重複を確認

制度あり層では、情報持出+競業の複合該当者の85.5%が正式届出済み

制度あり層における各リスク類型の正式届出率を比較したところ、情報持出+競業の複合該当者では85.5%が調査時点で正式届出済みでした。複合リスクは無届副業だけに限らず、届出済み副業にも一定数存在することから、届出の有無だけで安全性を判断せず、届出後の変化を継続確認する必要があります。

リスク類型別 正式届出率(調査対象:制度あり層・Q6有効回答者ベース n=3,298)

区分正式届出率
情報持出のみ68.6%
競業のみ74.2%
情報持出+競業85.5%

届出は副業を把握する入口であり、安全性を保証するものではありません。届出済みであっても複合リスク該当者は存在するため、副業先・エンドクライアント・業務内容・成果物の変更を継続確認し、再評価できる運用が必要です。

※出典:制度あり層・Q6有効回答者ベース n=3,298。情報持出のみ n=469、競業のみ n=155、両方該当 n=112(n は実数、割合はWB補正済み) ※注記:情報持出と競業の重複は、同一回答者が両項目に該当したことを示します。同一事案での同時発生、情報の提供先、因果関係を示すものではありません。

制度あり層では、情報持出+競業の複合該当者の85.5%が正式届出済み

申請ズレがあると、競業・情報持出の両方を評価できない

副業制度がある企業の副業者(制度ありベース)のうち、届出・承認後に申請内容と実態のズレが生じている層を抽出し、その層における情報持出率を見たクロス集計です。制度ありベースでも、ズレがある層では情報持出率が45〜48%台まで高まります。

ズレの種類別 情報持出率(調査対象:副業者・制度ありベース n=2,603)

ズレの種類内容情報持出率
副業先の名称:実際の提供先が見えていない個人事業主名での申請や、紹介・仲介会社経由など、実質的な提供先(エンドクライアント)が見えない場合、競業判定ができていない45.0%
競業・利益相反の有無:本人任せでは競業判断にならない構造上、本来個人では判断不可能な競業・利益相反の確認を実施者本人の自己申告任せにしてしまい、会社視点での競業・利益相反をチェックできていないケース47.7%
副業内容・条件変更時の申告最初は問題ない副業が、副業先や事業内容の変化ポイントを合意できておらず、途中で競業化・利益相反が発生しても検知できない48.4%

確認なき承認は、情報持出しを見逃すだけでなく、競業・利益相反リスクを会社が未把握のまま引き受ける状態です。

※出典:副業者調査・制度ありベース n=2,603(WB補正済み)。グラフ=各項目のズレ該当層における情報持出率

申請ズレがあると、競業・情報持出の両方を評価できない

ノウハウが「個人に紐づく」業界ほど、持出・競業化しやすい

副業トラブル経験者3,253人を対象に、「本業と競合・競業する副業」を経験した割合を業界別に比較しました。全体平均13.5%に対し、建設業は18.6%、農業・林業・漁業・鉱業と商社・卸売・小売業は17.7%で、情報通信業の8.5%を上回りました。競業リスクはIT・金融などの情報産業だけに限らず、実務ノウハウ、顧客接点、取引関係が従業員個人に蓄積される業界にも広がる可能性が示唆されます。

業界別 競業関連トラブル選択率(調査対象:副業者・トラブル経験者ベース n=3,253)

業界選択率
全体平均13.5%
建設業18.6%
農業・林業・漁業・鉱業17.7%
商社・卸売・小売17.7%
不動産業15.1%
医療・福祉15.0%
金融・証券・保険14.5%
情報通信業8.5%

情報通信業(8.5%)より、建設・農林・商社の方が高いという結果です。個人にノウハウが紐づく業界は、持出と競業化が同時に高まります。

※出典:副業者調査・トラブル経験者ベース n=3,253(WB補正済み)。回答者が少数の業界(n<30)は掲載から除外

ノウハウが「個人に紐づく」業界ほど、持出・競業化しやすい

情報持出しによる「競争優位の外部移転」は在職中の競業・利益相反として重く評価される

本業の情報・ノウハウ・顧客接点が副業先へ移転すると、単なる情報管理上の問題ではなく、在職中の競業・利益相反として評価されます。競業関連トラブルでは、重い処分の経験率が70.7%に達します。

処分経験率の比較(調査対象:副業者・トラブル経験者ベース/競業関連 n=420・競業以外 n=2,711)

処分の区分競業関連トラブル経験者競業以外トラブル経験者差分
軽度処分(口頭注意・指導・書面注意など)55.7%36.8%+19.0pt
重い処分(減給・出勤停止・降格・異動など)70.7%58.7%+12.0pt
懲戒・退職/解雇(懲戒処分・自主退職・解雇など)38.8%30.4%+8.4pt

競業関連トラブルでは、競業以外のトラブルより、軽度処分・重い処分・懲戒等のすべてで処分経験率が高くなっています。特に重い処分は70.7%に達し、在職中の競業は単なるルール違反ではなく、全社リスクとして利益相反や事業機会の外部移転として厳しく評価されやすい傾向がうかがえます。

※出典:副業者調査・トラブル経験者ベース(WB補正済み・複数回答)。競業関連 n=420/競業以外 n=2,711。処分の発生しやすさを示すものであり、個別事案の処分を予測するものではありません。差分は四捨五入前の値で算出。

情報持出しによる「競争優位の外部移転」は在職中の競業・利益相反として重く評価される

専門家コメント:同志社大学法学部・大学院法学研究科教授、弁護士 土田道夫氏

承認・届出は、競業避止義務の免除を意味しない

在職中の競業避止義務は、守秘義務と同様、誠実義務の一環として信義則上当然に発生します(労働契約法3条4項)。特別の合意や就業規則の定めがなくても、在職中に競業他社の運営に積極的に関与することは、重要な営業秘密の漏洩や顧客の奪取によって使用者の正当な利益を侵害し、またはその蓋然性が高い行為だからです。在職中の競業は、懲戒解雇を含む懲戒処分や解雇の対象となり、企業が被った損害によっては、従業員の損害賠償責任を発生させることがあります。

ここで重要なのは、在職中の競業避止義務は、「会社が副業を承認したかどうか」とは別の次元で存在するという点です。会社が承認した副業であっても、その後に競業の事実や利益相反の事実が生じれば、競業避止義務・誠実義務違反の問題は当然に生じ得ます。

この点、本調査を見ると、情報持出経験者の72.1%が正式届出済みであり、副業制度がある企業に限ってみても、情報持出と競業の両方に該当する層の85.5%が届出済みで、情報持出のみの層(68.6%)や競業のみの層(74.2%)を上回っていたという結果が出ていますが、この事実は、届出の手続きを通過したことは何ら競業避止義務の免除を意味せず、義務違反の問題が生ずる、という法的構造をデータで裏づけたものと読めます。副業制度の運用の過程で、しかも最も懸念される層ほど届出率が高いのですから、届出の有無を安全性の指標として扱うことはできません。

見過ごせないのは、制度を運営する側の実態です。本調査では、申請時に競業・利益相反を確認している管理者は2割弱、審査に必要な4項目が揃う申請は3.3%にとどまります。私が整理した5類型のうち③は「競業他社にて会社の顧客・取引先を奪取/会社の秘密情報を利用」、すなわち競業と情報の利用が重なった状態を独立の類型として立てたものですが、競業の確認と情報管理の確認が別々の部門・別々のタイミングで行われていれば、その重なりを識別できる者は社内に存在しません。在職中の競業・利益相反は、担当者個人の判断や職務単位の視点で処理できる問題ではなく、全社的な視点で捉えるべき経営とガバナンスの問題です。承認の集積が経営の知らないところでリスクの蓄積とならないよう、承認時の一回的な審査で終わらせず、承認後の実態の変化を把握できる仕組みを持つことが求められます。

―― 同志社大学法学部・大学院法学研究科教授、弁護士 土田道夫氏

既に「届出→発覚→処分」の経路は通っている

情報持出しは無届副業だけで起きているわけではありません。実際には、持出群の7割超が正式に届出済みであり、その後も内部通告や副業先からの指摘を通じて発覚し、配置転換・副業停止・減給などの処分につながっています。

それでも持出は止まっていない ―― 事後対応では繰り返しを止められない

STEP内容数値
STEP 01 届出持出群が正式届出済み72.1%(vs 非持出群 62.4%)
STEP 02 検知・発覚内部通告28.2%
STEP 02 検知・発覚副業先指摘28.0%
STEP 03 処分配置転換・副業停止50.2%
STEP 03 処分文書注意35.6%
STEP 03 処分減給・出勤停止34.4%

※検知・発覚の内部通告・副業先指摘は、いずれも非持出群の約5倍。

問題は「届出がないこと」だけではありません。届出後に発生した変化を捉えられず、事後対応だけでは繰り返しを止められていないことが本質です。

※出典:副業者調査 n=8,579(WB補正済み)。情報持出経験者 n=947/非持出群 n=7,632

既に「届出→発覚→処分」の経路は通っている


分析結果③ 申請ズレで発生するリスク ―― なぜ見逃されるのか、制度運用の穴

章扉「申請ズレで発生するリスク ―― なぜ見逃されるのか」

申請と実態にズレがある層の情報持出率は34.5% ―― ズレなしの10.2倍

副業制度がある企業の副業者2,603人を対象に、申請項目と実態にズレがある層と、ズレがない層を比較しました。情報持出率は、ズレあり層で34.5%、ズレなし層で3.4%となり、10.2倍の差が確認されました。ズレがある層では、約3人に1人が情報持出しを経験しています。

申請ズレの有無別 情報持出率(調査対象:副業者・制度ありベース n=2,603)

区分情報持出率
申請ズレ あり34.5%(約3人に1人)
申請ズレ なし3.4%
倍率10.2倍

申請ズレは、単なる記載不備ではなく、情報持出経験が集中するリスクシグナルです。

※出典:副業者調査・制度ありベース n=2,603(WB補正済み)。申請ズレ=申請項目のいずれかで実態と乖離。倍率は四捨五入前の値で算出。情報持出=顧客情報・ノウハウ・情報資産のいずれかの持出経験。本結果は申請ズレと情報持出経験の関連を示すものであり、因果関係を示すものではありません。

申請と実態にズレがある層の情報持出率は34.5%

兆候が重なるほど、持出リスクは跳ね上がる

申請ズレ・成果物化・指揮命令・他社制限など、個別に見れば小さく見える兆候でも、複数が重なると持出リスクは急上昇します。単一条件ではなく、5条件を組み合わせて見ることで、危険な副業を早期に見分けやすくなります。

該当兆候数別 情報持出率(調査対象:副業者・制度ありベース n=2,603)

リスク群該当件数情報持出率n
低リスク群0〜1件 該当2.5%n=523
中リスク群2〜3件 該当24.5%n=1,320
高リスク群4〜5件 該当43.7%n=760

重要なのは、1つの兆候の有無ではなく、複数兆候の重なりです。制度は単発確認ではなく、複合観測で設計する必要があります。

※出典:副業者調査・制度ありベース n=2,603(WB補正済み)。判定条件は行動ベースの5条件(意識項目は除外して算出)

兆候が重なるほど、持出リスクは跳ね上がる

なぜ承認後に漏れるのか ―― 承認は一時点の情報にすぎない

承認時に確認できるのは、あくまで申請時点の副業情報に限られます。しかし実際には、承認後に副業先・業務内容・条件・関与の深さが変化し、その変化が情報持出し・競業化・利益相反の顕在化につながります。

フェーズタイミング内容
① 届出・申請承認時点(申請時の情報を確認して承認)副業先名/業務内容/契約形態/稼働時間
② 実態変化承認後(時間の経過とともに変化)条件変更/発注者指示/社内ツール利用/他社制限
③ 顕在化実態が変化し、リスクが顕在化情報持出し/競業化/利益相反/重い処分

承認フローの課題は、最初に許可したことではなく、変更後の実態を再評価できないことにあります。制度が変化を追えなければ、形式上の承認は実態管理になりません。

※本項は調査結果(分析結果①〜③)から導かれる構造整理であり、因果を断定するものではありません。

なぜ承認後に漏れるのか ―― 承認は一時点の情報にすぎない

申請ズレ以前の問題:初回申請で「リスクを審査できていない」

副業先の業務内容、提供先企業名、契約形態、競業・利益相反といった基本項目が揃わなければ、会社はその副業を適切に審査できません。実際には、審査に必要な4項目が揃った申請はごく少数にとどまり、制度の入口段階で既に統制が弱いことが分かりました。

リスク審査に必要な項目の確認率

確認項目管理者調査副業者調査(正式制度あり)
副業先の業務内容21.6%20.7%
提供先企業名(エンドクライアント含む)19.8%15.3%
副業の契約形態20.1%18.7%
競業・利益相反18.5%20.0%

必要4項目が揃う申請はごく少数

調査対象4項目が揃う申請
管理者3.3%
副業者2.8%

提供先・契約形態・業務内容が分からなければ、競業性・利益相反・本業情報の転用可能性は判断できません。リスクを評価できないまま承認し、その後の変更や申請ズレも検知できない状態になります。

  • 初回審査の課題は“厳しさ不足”ではなく、“判断材料不足”です。
  • 見えない副業は、そもそも適切に承認できません。
  • 必要情報が無いまま承認すれば、変更把握も再審査もできません。
  • 初回申請の不備は、その後の漏れを生む起点になります。

※4項目:業務内容/提供先企業名/契約形態/競業・利益相反【管理者Q5 n=2,846/副業者Q8 n=3,298(WB補正済み)】

申請ズレ以前の問題:初回申請で「リスクを審査できていない」

届出後の年次更新・月次確認は「2割未満」

副業の実態は承認後に変化するにもかかわらず、年次更新や月次の時間確認を制度として継続実施している企業は限定的です。特に、競業と情報漏えいの両方を継続確認できている企業は3割弱にとどまり、承認後の追跡管理が不足しています。

代表的な定期チェック施策の実施率(調査対象:届出・許可制の管理者 n=2,249)

施策実施率
年1回の再申請リマインド17.1%
毎月の副業労働時間申告18.6%
競業・情報漏えいを両方とも制度化して継続確認28.4%

更新期限を超過した際の対応(調査対象:年次再申請リマインドあり n=371)

対応割合
リマインド・督促まで77.9%
面談・事実確認/処理確定19.0%
後追いしない3.1%

制度は初回届出で終わらせてはいけません。定期更新と、未更新者・超過者への事実確認を組み合わせて初めて、承認後の変化を管理できます。

※管理者調査(WB補正済み)|Q1=届出・許可制 n=2,249|Q4_5/Q4_7/Q6_2・Q6_3 更新超過:Q4_5該当 n=371 × Q8_3(督促まで77.9%/面談・処理確定19.0%/後追いなし3.1%)

届出後の年次更新・月次確認は「2割未満」


対策指針 ―― 変化を検知して止められる制度へ

章扉「対策指針 ―― 変化を検知して止められる制度へ」

「申請させる制度」から「変化を検知して止められる制度」へ

副業を一律に止めるのではなく、評価できない副業を放置しないことが重要です。そのためには、副業先名、最終エンドクライアント、競業・利益相反、条件変更、指揮命令・社内ツール利用、役員就任など、変化時に再確認すべき項目を明確にする必要があります。

#確認項目見るべき理由運用上の打ち手
1副業先名競合・取引先・顧客接点を判断できる名称の省略不可、変更時再申請
2最終エンドクライアント業務委託・個人事業では実質的な提供先がズレる発注者名と実提供先を分けて取得
3競業・利益相反本人視点ではなく会社視点の判断が必要人事・法務・事業部で確認
4条件変更最初は問題ない副業が途中で競業化する月次/四半期/年次の更新申告
5指揮命令・社内ツール副業先の組織内に入り込むほど情報転用が近い許可条件・停止条件を明記
6役員・理事等への就任(委任)会社法上の忠実義務が本業と衝突しうる就任・株式保有は届出必須+利益相反審査

運用強度は本業化意向の強さで変える

対象運用強度
強意向者“止めない”動的管理
弱意向者実害抑止
非意向者軽量運用

制度運用の目的は、申請件数を増やすことではありません。変化が起きたときに再評価し、危険な副業を見逃さない仕組みに変えることが目的です。

※本項は調査結果に基づく実務チェックリストの提案です。

「申請させる制度」から「変化を検知して止められる制度」へ

管理は「検知・識別・抑止」の3層で ―― 知識教育より抑止力

持出経験者の多くは、自覚を持って行動しており、研修で“知らせるだけ”では抑止になりにくいと考えられます。必要なのは、届出制・許可制による検知、ズレや近接性を見抜く識別、そして記録・契約・処分明示による抑止を組み合わせた三層管理です。

層内容対応強度
③ 抑止層記録・契約・処分明示で行為コストを可視化高
② 識別層5プロファイルとズレ・近接性の抽出中
① 検知層届出制・許可制で「見える化」低

※上層ほど対応強度が高くなります。検知だけでは止まりません(持出者の72%が届出済み)。

抑止力 3つの設計要素

要素内容
A 証拠を残す:証跡化副業先での情報利用が後から追える状態をつくる
B 規定・制限する競業避止・秘密保持を本業×副業先×本人の関係で明確にする
C 実施リスクの明示:処分露見時の不利益を事前に示し、行動コストを可視化する

「知識で防ぐ」だけでは限界があります。制度は、見つける・見分ける・抑止する、の3層で設計して初めて実効性を持ちます。

※出典:副業者調査 n=8,579(WB補正済み)。持出者の届出率は情報持出経験者 n=947 ベース。本項は調査結果に基づく管理フレームの提案です。

管理は「検知・識別・抑止」の3層で ―― 知識教育より抑止力

段階的な対策ロードマップ ―― 検知から抑止へ

ハイリスク層の特定から着手し、1年で「変化を検知して止められる制度」へ移行します。

01 短期(〜3ヶ月)|ハイリスク層の特定とフォロー(対象:男性20-30代+専門スキル副業者)

  • 5プロファイル該当者のリスト化
  • 個別ガイダンスの設計
  • 既存届出者の再棚卸し(申請と実態のズレ確認)

02 中期(〜1年)|検知体制 × 副業先連携(対象:全副業者)

  • 届出義務化・許可制への移行
  • 変更時再評価(月次/四半期の更新申告)の導入
  • 競業避止・秘密保持の3者間合意テンプレート整備

※本項は調査結果に基づく段階的な導入提案です。

段階的な対策ロードマップ ―― 検知から抑止へ


結論:危ないのは副業ではない。会社が実態を評価できない副業である。

情報持出と競業化は、申請と実態のズレの中で重なり合って進行します。副業管理は「検知(届出制)→識別(ズレ・近接性)→抑止(処分明示・記録性)」の3段階で、二つのリスクを一体で止められる制度へ進化させる必要があります。

結論:危ないのは副業ではない。会社が実態を評価できない副業である。

専門家コメント:同志社大学法学部・大学院法学研究科教授、弁護士 土田道夫氏

副業の推進と管理は、対で設計されなければならない

競業避止義務は、在職中と退職後とで法的評価が全く異なります。在職中の競業は信義則違反行為として厳格に評価される一方、退職後は、労働契約は終了しており、また、職業選択の自由(憲法22条1項)が働くため、大原則として自由です。退職後の競業避止義務を課すには明示の根拠が必要であり、その有効性は労働者の地位、秘密・情報保護の必要性、競業制限の範囲(職種・期間・地域の限定)、代償の有無などから厳しく審査されます。この非対称性を混同し、退職後まで広範な制限を課そうとする運用は、労働移動を不当に妨げるものとして是正されるべきです。

在職中の副業管理の場合は、もう少し複雑です。まず、モデル就業規則や裁判例が企業に認めているのは、労務提供上の支障や企業秘密の漏洩、競業による利益侵害など、企業の正当な利益を害する場合の禁止・制限であって、副業の一律禁止や過剰な規制ではありません。他方で、在職中の競業を競業避止義務によって禁止することは、もとより正当な行為です。また、副業促進の流れの中で「本業に資する副業」が奨励される事例があるようですが、そのような副業が奨励されればされるほど、副業は本業の隣接領域に集まり、競業・利益相反の接触面は構造的に広がります。副業の推進と管理は対で設計されなければなりません。本調査の結論である「危ないのは副業ではない。会社が実態を評価できない副業である。」という整理は、この法理の要請と方向を同じくするものです。実態を把握し、問題のある場合に限って対応する。それが副業時代の適正な労務管理の姿だと考えます。

―― 同志社大学法学部・大学院法学研究科教授、弁護士 土田道夫氏


Appendix

(参考)情報リスクの温度は、AI時代にさらに上がる

本調査の背景として、情報の価値とリスクを取り巻く環境変化を補足します。

環境変化内容
生成AIによる流出の容易化画面キャプチャ1枚からでも情報が構造化データとして再利用可能になり、持ち出された情報の影響範囲が拡大している
競争優位の源泉がデータへAIの一般化により、企業の競争優位は「保有データとノウハウの差分」へ移行。工程や品質管理の情報は、一度の持出が優位性を毀損しうる
情報管理への社会的関心の上昇官公庁・大手企業でも情報持出事案が相次ぎ、情報漏洩は経営アジェンダとして扱われつつある。副業経由の情報移転リスクも、この文脈で重要性を増す

守るべき情報の価値が上がる時代に、「確認なき承認」を放置するコストも上がり続けます。

※本項は調査データではなく、社会動向を踏まえた補足です。

(参考)情報リスクの温度は、AI時代にさらに上がる

属性情報(性別×年代別 回答者数)

※[居住地] 全国/[年齢] 20歳以上65歳以下/[性別] 男女。表は確定データのサンプル数

性別年代事前調査副業者調査副業制度管理者副業発注者
男性20代1,361232149163
男性30代5,727792431473
男性40代14,4101,837936921
男性50代24,2642,1791,037972
男性60〜65歳11,150996351335
女性20代2,485281165178
女性30代6,111578258277
女性40代8,770803259297
女性50代8,538693138138
女性60〜65歳2,4581883943

属性情報(性別×年代別 回答者数)

業界別回答者数

業界副業者副業制度管理者副業発注者
全体8,5793,7633,797
農業・林業・漁業・鉱業186169168
建設業639281259
製造業1,084351348
電気・ガス・水道業162177165
情報通信業587330335
出版・印刷業624857
メディア・マスコミ・広告85103107
運送・輸送業628263287
商社・卸売・小売業858304305
金融・証券・保険業509284297
不動産業298231237
調査業・シンクタンク646770
サービス業1,199327331
教育業530267240
医療・福祉1,190288314
公務員498273277

※[居住地] 全国/[年齢] 20歳以上65歳以下/[性別] 男女。表は確定データのサンプル数

業界別回答者数

引用について

引用について


出所表記

引用について:本調査を引用いただく際は出所を明示してください。 出所の記載例:株式会社フクスケ「業界横断 副業コンプライアンス調査」(2026年7月) 問い合わせ先:株式会社フクスケ 広報担当 info@fkske.com https://www.fkske.com

※専門家コメントは一般的な法解説であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。個別の判断が必要な場合は、弁護士等の専門家にご相談ください。

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