働き方の多様化により副業を始める社員が増える一方、巧妙化する副業詐欺は企業にとって見過ごせないリスクです。しかし、詐欺の手口や見分け方を事前に把握し、社内体制を整えることで、そのリスクは大幅に軽減できます。本記事では、社員を副業詐欺から守るために人事が知っておくべき具体的な対策を、事例を交えながら解説します。そもそも副業詐欺とは?副業詐欺とは、「誰でも簡単に稼げる」といった魅力的な言葉で人々を誘い込み、仕事の紹介やノウハウの提供を名目に金銭をだまし取る詐欺行為のことです。働き方改革の推進によって副業への関心が高まる中、多くの人が「手軽に収入を増やしたい」と考えています。副業詐欺は、まさにそうした人々の心理につけ込む形で巧妙化し、増加傾向にあるのです。典型的な手口としては、最初に高額な登録料や教材費を支払わせた後、連絡が取れなくなるといったケースが挙げられます。被害は金銭的な損失だけに留まりません。詐欺の過程で渡してしまった個人情報が流出したり、詐欺業者の間で「騙しやすい人物」としてリスト化され、別の詐欺に巻き込まれる二次被害に発展したりするリスクも潜んでいます。副業詐欺の被害事例副業への関心が高まる一方で、それを悪用した詐欺の被害は後を絶ちません。実際にどのような手口で被害が発生しているのか、具体的な事例を通して確認してみましょう。実際に報告されている被害事例には、以下のような共通した手口が見られます。SNSやネット広告で「誰でも簡単に稼げる」といった副業を見つけるLINEなど、個別のメッセージアプリでやり取りを始めるよう誘導される「登録料」「サポート費用」「審査料」など、さまざまな名目で金銭を要求される一度支払うと、さらに高額な金銭を要求されることもある最終的に相手と連絡が取れなくなり、支払ったお金は戻ってこない以下のリンクは、23歳の女性が121万円の被害に遭った具体例です。栃木・小山市の事例から学ぶ 特殊詐欺の被害と手口「“副業の審査にお金が必要”に注意!」 動画ありこれは決して他人事ではなく、どの企業の社員にも起こりうるリスクです。企業としては、こうした具体的な被害事例を社内で共有し、社員一人ひとりの防犯意識を高めることが重要になります。 副業詐欺の代表的な手口副業詐欺の手口は年々巧妙化しており、一見すると詐欺とは気づきにくいケースも少なくありません。社員が被害に遭うのを未然に防ぐためには、まず企業側がその代表的な手口を把握しておくことが重要です。ここでは、特に相談件数が多く、注意が必要な手口を解説します。 高額な情報商材の販売副業詐欺の代表的な手口として、高額な情報商材の販売が挙げられます。これは、「ネットで簡単に稼げる方法」や「資産を倍増させる投資術」といったノウハウを、PDFや動画などの形式で販売するものです。価格は数千円から100万円以上と様々ですが、購入するまで中身が確認できないという大きなリスクがあります。実際に、一般的な情報しか書かれていなかったり、約束のサポートがなかったりと、支払った金額に見合わない価値のないケースが後を絶ちません。 スマホでできる簡単副業という名目の詐欺「スマホだけで簡単に稼げる」といった謳い文句で勧誘する詐欺も、典型的な手口の一つです。この手口は、特別な資格やスキルがない人をターゲットにしています。SNSやブログを通じて「好きな時間にスマホを操作するだけ」などと宣伝し、登録料やサポート費用といった名目で金銭をだまし取ります。また、「指定のサイトにアクセスするだけで報酬が発生する」などと言って、個人情報を抜き取る目的の悪質なサイトへ誘導するケースも存在します。出会い系・マッチングアプリの“サクラ副業”出会い系サイトやマッチングアプリで、異性のふりをしてメッセージのやり取りをする「サクラ」の仕事を装った副業詐欺も存在します。「メールを返信するだけで高収入」「相談に乗るだけで稼げる」といった甘い言葉で勧誘し、仕事を開始させます。しかし、報酬を受け取るためにはポイントの購入が必要などと理由をつけ、登録料や利用料といった名目で金銭をだまし取るのが目的です。特に女性がターゲットにされやすい手口であり、注意喚起が必要です。副業詐欺の見分け方副業詐欺には、注意深く観察すれば見抜ける共通の特徴が存在します。社員が怪しい副業案件に手を出してしまう前に、企業として具体的な見分け方を周知し、注意喚起を行うことが被害の未然防止に繋がります。ここでは、副業詐欺に共通する4つのチェックポイントを解説します。これらのポイントを知っておくだけでも、多くの詐欺被害は防げるはずです。運営元が不明/登記されていない副業を募集しているサイトの運営元が不明確な場合は、詐欺の可能性が高いと考えられます。詐欺を目的としたサイトの多くは、会社名や住所、連絡先といった特定商取引法で表示が義務付けられている情報を記載していないか、架空の情報を掲載していることがほとんどです。社員が副業を探す際には、少しでも怪しいと感じたら、国税庁の法人番号公表サイトで登記情報を確認するなど、運営元が実在する信頼できる企業かどうかを確認するよう指導しましょう。事前にお金を払わせようとする副業を開始するにあたり、「登録料」や「サポート費用」といった名目で、事前に何らかの費用を要求された場合は詐欺を疑うべきです。本来、労働の対価として報酬を受け取るのが副業であり、働くためにお金を支払う必要は原則としてありません。「最初にこの費用を払えば、後でそれ以上に稼げるから大丈夫」といった説明は、詐欺の典型的な勧誘トークです。企業としては、業務委託契約など正当な理由がない限り、仕事の前にお金を払う必要はないという点を社員に明確に伝えることが重要です。内容があいまいで、仕事内容が明記されていない「誰でもできる簡単な作業」「スマホをタップするだけ」のように、具体的な業務内容が記載されていない副業の募集には注意が必要です。どのような仕組みで報酬が発生するのかが不透明なまま契約してしまうと、後から違法な行為をさせられたり、友人や知人を勧誘するよう強要されたりする危険性があります。魅力的な言葉だけで、具体的な仕事内容や報酬体系が明確に示されていない案件には手を出さないよう、社員に周知徹底するようにしてください。「絶対に稼げる」「リスクゼロ」など極端な表現を多用「絶対に稼げる」「リスクゼロで始められる」といった、あまりにも都合の良い言葉が並ぶ広告は、詐欺の典型的な手口です。「1日数分の作業で月収100万円」や「今だけの限定情報」など、正常な判断を失わせるような甘い言葉で利用者を誘い込もうとします。しかし、リスクを負わずに高いリターンを得られるビジネスは基本的に存在しません。このような非現実的な好条件を提示された場合は、まず詐欺を疑い、安易に話に乗らないよう社員に注意を促すようにしましょう。社員が副業詐欺にあったとき、企業はどう対応すべきか万が一、社員が副業詐欺の被害に遭ってしまった場合、企業として見て見ぬふりはできません。被害を一人で抱え込ませず、迅速にサポートすることが、本業への影響を最小限に抑え、社員を守ることに繋がります。ここでは、企業として取り組むべき具体的な対応策と、社員を支えるための体制づくりについて解説します。社内相談窓口の整備もし社員が副業詐欺の被害に遭ってしまった場合、企業として迅速なサポート体制を整えておくことが重要です。被害に遭った社員は、会社に知られることへの不安から、一人で問題を抱え込んでしまうことが少なくありません。そこで有効なのが、人事部や法務部などが連携する専門の相談窓口を設置し、全社員に周知しておくことです。窓口では、被害状況を丁寧にヒアリングし、警察や消費生活センター、弁護士といった外部機関への相談を促すなど、具体的な解決に向けた支援を行います。社員が安心して相談できる環境を整えることが、被害の早期発見と解決に繋がります。返金・法的対処社内窓口で被害状況を把握した後は、返金に向けた具体的な法的対処のサポートが求められます。企業が直接詐欺業者と交渉するわけではありませんが、顧問弁護士を紹介したり、詐欺案件に詳しい専門家への相談を促したりすることは可能です。クレジットカードで支払ってしまった場合には、カード会社に連絡し、支払い停止を求める「チャージバック」という手続きが利用できる可能性も伝えましょう。社員が一人で抱え込まず、適切な法的措置を講じられるよう、証拠保全のアドバイスを含め、専門家と連携しながら後押しすることが重要です。【まとめ】副業詐欺から社員を守る、企業の予防と対策副業が一般化する一方で、社員が巧妙な副業詐欺に巻き込まれるリスクは、企業にとって無視できない課題となっています。本記事で解説した詐欺の代表的な手口や見分け方を社内で共有し、万が一のための相談窓口を設置することが、被害を未然に防ぎ、拡大させないための鍵となります。企業が主体的に情報提供と体制整備を行うことで、社員を詐欺被害から守り、安心して能力を発揮できる職場環境を実現できるでしょう。