副業を解禁する企業が増える中、「派遣社員の副業をどう扱うべきか」は、人事にとって新たな課題です。しかし、無計画に副業を容認すると、情報漏洩や労務管理上のリスクを招く恐れがあります。本記事では、派遣社員の副業に関する基本ルールから、人事が知るべきリスクと具体的な対応策を解説します。副業が広がる中で、派遣社員は“副業OK”なのか?働き方の多様化を背景に、副業を始める人が増えています。この流れは正社員だけでなく、派遣社員も例外ではありません。派遣社員は比較的、残業や休日出勤が少なく規則正しい勤務形態が多いため、空いた時間を活用して副業をしたいと考える方もいます。しかし、人事担当者としては、派遣社員の副業を認めてよいのか、また、どのような点に注意すべきか、気になる点も多いはずです。そもそも派遣社員の副業は法的に問題ないのか、基本的な部分から確認していきましょう。派遣社員の副業は法律上できる?基本のルール派遣社員の副業について考える際、人事担当者がまず押さえるべきは、その可否を判断するための基本的なルールです。法律上の原則はどうなっているのか、誰の就業規則に従うべきなのか、そして業務内容に制限はあるのか。ここでは、派遣社員の副業を認めるか判断する上で、基本となる3つのルールを解説します。派遣社員が副業を行うことは法律上は問題なしまず大前提として、派遣社員が副業を行うことは法律上、何ら問題ありません。日本国憲法第22条では「職業選択の自由」が保障されており、労働者がどのような仕事を選ぶかは個人の自由に委ねられています。また、労働基準法にも副業そのものを直接的に禁止する規定はありません。そのため、派遣社員であっても、本業である派遣先企業の勤務時間外を使って別の仕事に従事することは、原則として認められています。 就業規則の確認が必要なのは「派遣元」のルール派遣社員が副業を検討する際に、必ず確認すべきなのが就業規則です。ここで人事担当者が押さえておくべき重要な点は、派遣社員が従うべきルールは、実際に勤務している「派遣先」の企業ではなく、雇用契約を結んでいる「派遣元」の就業規則であることです。法律上は副業が可能であっても、派遣元の会社が就業規則で副業を制限している場合があります。したがって、副業を希望する派遣社員に対しては、まず雇用主である派遣会社の就業規則を確認するよう指導することが適切な対応となります。 副業先の業務が派遣先と競合しないかにも注意が必要派遣社員の副業を検討する上で、その業務内容が派遣先企業の事業と競合しないかという点にも細心の注意が必要です。たとえ派遣元が副業を許可していても、派遣先の業務で得た機密情報や専門的なノウハウが、副業を通じて競合他社に流出するリスクは避けなければなりません。人事担当者としては、派遣元企業と連携し、派遣社員本人に競業避止義務の重要性をしっかりと理解してもらうことが、自社の事業利益を守るための重要なリスク管理となります。派遣社員の副業がもたらす企業へのメリット派遣社員の副業は、リスク管理が前提となりますが、実は受け入れ企業にとっても見過ごせないメリットが存在します。社員個人の成長が、巡り巡って企業の利益に繋がる可能性があるのです。人事担当者としては、リスク側面だけでなく、これらのプラス面も理解しておくことが、より柔軟な人事戦略を立てる上で役立ちます。優秀な人材の確保と定着派遣社員のスキルアップエンゲージメントの向上副業に寛容な姿勢を示すことは、働き方の多様性を重視する企業であるというアピールになり、優秀な人材の確保や定着に繋がります。また、派遣社員が副業を通じて習得した新たなスキルや知識が、本業である派遣業務の質や生産性を向上させることも期待できます。さらに、副業による収入増や自己実現は、派遣社員自身の仕事に対する満足度を高め、結果として本業へのモチベーションやエンゲージメント向上に貢献するケースも少なくありません。派遣社員が副業で選びやすい仕事とその実態派遣社員が副業を始める際には、本業である派遣業務との両立しやすさが仕事選びのポイントとなります。そのため、勤務時間や場所に融通が利きやすい仕事が選ばれる傾向にあります。ここでは、派遣社員に選ばれやすい副業の具体的なパターンと、その両立の実例を見ていきましょう。副業で人気のある職種や働き方のパターン派遣社員が副業を選ぶ際には、本業への影響が少なく、空いた時間を有効活用できる働き方が好まれる傾向にあります。具体的には、大きく分けて以下の3つのパターンが主流です。働き方の種類具体的な仕事の例在宅ワーク・Webライティング短期アルバイト・飲食店スタッフスキルシェア・語学レッスンこれらの副業は、派遣社員のスキルアップや収入増に繋がる可能性がある一方で、本業とのバランスを崩すリスクも内在します。人事担当者としては、社員がどのような副業を選択する傾向にあるのかを把握し、潜在的なリスクに備えることが大切です。勤務時間・収入の目安|本業と副業の両立実例派遣社員が本業と副業をどのように両立させているのか、具体的な勤務時間や収入の目安を事例で見ていきましょう。副業時給の目安具体的な両立事例在宅ワーク1,000円~2,500円平日の夜間や休日を利用し、データ入力やライティングで月3~5万円の収入を得る。短期アルバイト1,100円~1,800円土日を中心にイベントスタッフや軽作業に従事し、1日で1万円前後の収入を得る。スキルシェア2,000円~5,000円専門スキルを活かし、週末にオンライン講師などを行い、月5万円以上の収入を得る。このように多くの派遣社員は、本業に支障が出ないよう、週末や平日の夜間といった時間を上手く活用して副業を行っています。人事担当者としても、こうした両立の実態を社員とのヒアリングなどを通じて把握しておくことが重要です。派遣社員の副業におけるリスクと注意点派遣社員の副業は、収入増やスキルアップといったメリットがある一方で、企業にとっては看過できないリスクもはらんでいます。これらのリスクを事前に把握し、適切な対策を講じることが、トラブルを未然に防ぐ鍵となります。ここでは、派遣社員の副業における代表的なリスクと注意点を解説します。労働時間の通算・過重労働への懸念派遣社員の副業を容認する上で、人事担当者が最も注意すべき点が、労働時間の管理です。労働基準法では、複数の事業場で働く労働者の労働時間は通算されるのが原則です。つまり、派遣先での勤務時間と副業先での労働時間を合算して、法定労働時間を超えていないかを確認する必要があります。この管理を怠ると、社員が意図せず過重労働に陥り、心身の健康を損なうだけでなく、本業のパフォーマンスにも悪影響を及ぼす恐れがあります。派遣元企業が管理主体ではありますが、派遣先企業としても、社員の健康と安全への配慮は不可欠です。情報漏洩・競業避止の観点からの懸念副業を容認するうえで、情報漏洩や競業避止のリスクは避けて通れない重要な課題です。派遣社員は、日々の業務を通じて派遣先の内部情報や顧客データといった機密情報に触れる機会があります。これらの情報には当然、守秘義務が課せられており、これを遵守することは労働者の基本的な責務です。もし副業先が派遣先と競合する事業であった場合、意図せずとも業務上の知識が漏洩し、企業の利益を著しく損なう事態に繋がりかねません。人事担当者は、派遣元と連携し、社員本人にこのリスクの重大性を理解させる必要があります。人事部が検討すべきポイント派遣社員の副業をリスク管理の視点から適切に運用するには、人事部による積極的な体制づくりが欠かせません。場当たり的な対応ではなく、あらかじめ明確なルールを定めておくことで、社員が安心して相談できる環境が生まれ、トラブルの予防にもつながります。ここでは、企業と社員の双方を守るために、人事部として検討すべきポイントを解説します。副業ガイドラインに「派遣社員」も含めておくべき理由企業が副業に関するガイドラインを設ける際、正社員だけでなく派遣社員もその対象に含めることが重要です。その主な理由は以下の通りです。トラブルの未然防止労務管理の一貫性確保企業としての公平な姿勢の明示派遣社員であっても、業務を通じて企業の機密情報に触れる機会があり、情報漏洩や過重労働といったリスクは正社員と何ら変わりません。雇用形態に関わらず、すべての従業員に対して統一された明確なルールを適用することが、管理体制の一貫性を保ち、公平な企業姿勢を示すことに繋がります。相談できる体制づくりと、柔軟な判断基準の導入副業を一律に禁止・許可するのではなく、社員が気軽に相談できる窓口を設けることは、リスク管理の観点からも効果的です。そのうえで、個別の副業を判断するための基準をあらかじめ明確にしておきましょう。副業を判断する際の主なポイントは、以下の通りです。本業への支障がないか情報漏洩のリスクがないか競業避止義務に抵触しないかこれらの基準を踏まえたうえで、社員と対話を重ねながら柔軟に判断する体制を整えることが重要です。杓子定規なルールに頼るのではなく、個々の状況に応じた対応を行うことで、無申告で副業を行うといった潜在的なリスクの抑止にもつながります。社員が安心して相談できる環境こそが、健全な副業運用の第一歩といえるでしょう。【まとめ】派遣社員の副業を適切に管理するために人事担当者がすべきこと本記事では、派遣社員の副業をテーマに、人事担当者が知っておくべき基本ルールから、具体的な取り組み事例、そして潜在的なリスクまでを網羅的に解説しました。派遣社員の副業は、法律上は原則として認められており、優秀な人材の確保や社員のスキルアップといった企業側のメリットも期待できます。しかしその一方で、労働時間の通算による過重労働や、情報漏洩といったリスク管理は徹底しなければなりません。重要なのは、派遣社員も対象に含めた明確な副業ガイドラインを整備し、いつでも相談できる窓口を設けることです。本記事で解説したポイントを参考に、自社の状況に合わせた適切なルールを構築し、派遣社員が安心して働ける環境づくりに役立ててください。