副業詐欺のニュースが急増する中、もし自社の社員が被害に遭ってしまったら、人事としてどう対応すべきでしょうか。働き方の多様化で副業を始める社員が増える今、巧妙な詐欺手口は、個人の問題だけでなく企業にとっても大きなリスクとなります。本記事では、実際の逮捕事例を基に詐欺の典型的な手口を解説し、人事担当者が導入すべき具体的なリスク管理体制と未然防止策を詳しく紹介します。逮捕も続出──実際に起きた副業詐欺の手口とは副業解禁の流れとともに、それを隠れ蓑にした悪質な詐欺が急増し、社会問題となっています。全国で逮捕者が続出しており、その手口は年々巧妙化しているため、人事担当者も実態を把握しておく必要があります。ここでは、実際に報道された副業詐欺の逮捕事例を2つ紹介し、その手口を具体的に解説します。「スマホ1つで簡単副業」──沖縄で摘発された詐欺グループの実態沖縄県で摘発された詐欺グループは、「スマホ1つで稼げる」という手軽さを前面に押し出して勧誘を行っていました。最初は簡単な作業に対して実際に少額の報酬を支払い、ターゲットを信用させます。その後、「指定口座に現金を振り込めば、金額を上乗せして返す」と持ちかけ、少額の入金と返金を繰り返させました。被害者は振り込みを続け、約2万円に達したところで返金を受けようとしたが、追加で約11万円を求められたため警察に相談しました。「人生相談に乗る」──関東で拡大したSNS型詐欺とその背景関東で摘発された詐欺グループは、SNS上で「人生相談に乗るだけで報酬がもらえる」といった手軽さを謳い文句に被害者を勧誘していました。その被害総額は約53億円に上るとされています。このようなSNS型詐欺が拡大した背景には、場所や時間を選ばずに「簡単に稼ぎたい」という副業への関心の高まりがあると考えられます。巧妙化する副業詐欺──典型的な5つの手口副業詐欺は、ターゲットを信用させて金銭をだまし取るために、計算された手口を用いています。その手口には、いくつかの共通したパターンが見られます。社員を守るためには、人事担当者もこれらの典型的な流れを理解しておくことが重要です。ここでは、副業詐欺でよく見られる5つの手口を順に解説します。SNSやマッチングアプリでの接触副業詐欺の最初の入口として、XやInstagramといったSNSやマッチングアプリが悪用されるケースが増えています。詐欺師は、実在しない華やかな経歴や魅力的なプロフィール写真で利用者の興味を引きます。その後、ダイレクトメッセージなどで親しげに接触し、恋愛感情や親近感を抱かせるようなやり取りで心理的な距離を縮めていきます。最終的に被害者の警戒心を解いた上で、副業を装った投資話など、巧妙な手口で金銭をだまし取るのです。 「在宅OK・スマホ1つで」「初月10万円保証」など聞こえのよい訴求副業詐欺では、「在宅OK」「スマホ1つで完結」など、自由な働き方を強調するキャッチコピーが多用されます。「誰でも簡単に稼げる」「初月から10万円保証」といった、スキル不要・高収入を謳う文言で勧誘してくるのが特徴です。こうした一見魅力的な言葉は、副業初心者の警戒心を和らげ、安心感を与えるための常套手段にすぎません。特に本業が忙しい会社員にとっては魅力的に映るため、こうした甘い誘いには十分な注意喚起を行う必要があります。最初は小額の「教材費」や「登録料」魅力的な言葉でターゲットの興味を引いた後、詐欺師は決まって少額の金銭を要求してきます。「仕事に必要だから」「最初に登録料がかかる」などと説明し、「教材費」や「マニュアル代」といった名目で、数千円から数万円程度の支払いを求めてくるのです。この金額設定は、被害者に「そのくらいなら元が取れるだろう」と思わせ、支払いのハードルを下げるための巧妙な手口です。この少額の支払いは、さらに高額な要求への単なる入り口に過ぎないのです。段階的に高額な「上位プラン」や「継続課金」に誘導最初の少額な支払いを終えると、詐欺師はさらに言葉巧みに次の要求を突きつけます。「より高額な報酬を得るには、上位プランへの加入が必要」「特別なサポートが受けられる」などと持ちかけ、数十万円単位の高額な契約へと誘導するのです。被害者は「最初に支払った分を取り戻したい」という心理から、追加の支払いに応じてしまいがちです。しかし、いくらお金を支払っても、約束された高額な報酬が支払われることはありません。支払っても報酬が支払われず、連絡が取れなくなるケース多数高額なプラン料金やサポート費用を支払ったにもかかわらず、約束の報酬が支払われることはありません。支払いを催促しても、業者側は何かと理由をつけて引き延ばし、やがて連絡が途絶えてしまいます。SNSのアカウントが削除されたり、LINEがブロックされたりと、完全に音信不通となるのが典型的な手口です。この段階で初めて、被害者は多額の金銭をだまし取られたことに気づくのです。なぜ副業詐欺が増えているのか近年、副業詐欺の被害が後を絶ちません。その背景には、単に詐欺師の手口が巧妙化しているだけでなく、私たちの働き方や社会の変化が深く関わっています。なぜ、これほどまでに副業詐欺が増加しているのでしょうか。その背景には、主に4つの要因が考えられます。SNSでの副業紹介が日常化正規情報と詐欺の見分けが困難法整備が追いつかず逮捕・摘発が難しい長期化する景気低迷や物価上昇による収入への不安SNSの普及により、誰もが気軽に副業情報を発信・受信できるようになりましたが、その手軽さから、正規の募集に紛れ込んだ詐欺案件を見分けることは困難です。また、オンライン上の匿名性の高い犯罪に対して法整備が追いついておらず、詐欺師の逮捕や摘発が難しいことも被害拡大に拍車をかけています。さらに、終わりの見えない景気低迷や物価高騰が将来への経済的な不安を煽り、「少しでも収入を増やしたい」という切実な思いが詐欺師の甘い言葉に耳を傾けやすくさせてしまうのです。制度導入時に人事が取るべきリスク管理と対応策社員を副業詐欺のリスクから守るには、企業側の積極的な対策が不可欠です。トラブルを未然に防ぎ、社員が安心して働ける環境を整えるため、人事が主導してリスク管理体制を構築する必要があります。ここでは、その具体的な対応策を3つの観点から解説します。副業ポリシー・就業規則の整備で、社員と企業を守る社員が副業詐欺などのトラブルに巻き込まれるのを防ぐためには、企業として明確なルールを設けることが重要です。副業に関するガイドラインを「副業ポリシー」として策定し、就業規則に明記することで、社員と会社双方をリスクから守ります。ポリシーに盛り込むべき主な項目は以下の通りです。規定項目主な内容副業の定義と範囲どのような活動が副業にあたるかを具体的に定義する申請・届出プロセス副業を開始する際の手続き(許可制か届出制か)を定める遵守事項本業への支障、情報漏洩、企業イメージの毀損を禁止する競業避止・利益相反競合他社での就業や利益が相反する行為を禁止する健康管理副業を含めた総労働時間と健康確保に関する責務を明記するこれらのルールを整備し、副業開始時に会社へ申告する仕組みを整えましょう。企業は社員の副業状況を適切に把握し、潜在的なリスクを早期に発見しやすくなります。また、社員にとっても、許容される活動範囲が明確になることで、安心して副業に取り組める環境が整います。健全なルール運用は、社員が安易に怪しい副業へ手を出す前の、有効な抑止力としても機能するのです。信頼できる副業先の見極め方とは?人事ができるチェックポイント社員から副業の相談を受けた際に、人事担当者が具体的にアドバイスできるよう、信頼できる副業先を見極めるためのチェックポイントを解説します。運営会社の情報が明確か仕事内容や契約条件が具体的か事前に教材費や登録料を請求されないか第三者による客観的な評判や口コミがあるか副業を開始する前には、まず運営会社の名称、住所、連絡先が公式サイトなどで明確にされているか、法人登記されているかを確認させることが基本です。また、「誰でも簡単に高収入」といった曖昧な表現ではなく、業務内容や報酬体系が具体的に示されているかも重要な判断材料となります。特に、仕事を紹介する対価として「登録料」や「教材費」などの名目で金銭を要求する業者は、詐欺の可能性が極めて高いと伝えましょう。社員教育と相談体制がカギ──詐欺被害を未然に防ぐ仕組みづくり副業に関するルールを整備するだけでは、巧妙化する詐欺被害を完全に防ぐことは困難です。最も重要なのは、社員一人ひとりのリスクに対する意識を高めると同時に、社内に信頼できる相談体制を構築することにあります。定期的な研修や社内報などを通じて、副業詐欺の最新手口や実際に起きた被害事例を継続的に周知し、注意喚起を行いましょう。「うまい話には裏がある」という基本原則を伝え、当事者意識を持つよう促すことが大切です。【まとめ】巧妙化する副業詐欺から、社員と企業を守るために副業への関心の高まりと共に、副業詐欺の手口はますます巧妙化しており、人事担当者にはこれまで以上のリスク管理が求められています。社員を守るためには、副業に関する明確な社内ルールを整備すると同時に、具体的な詐欺の手口や安全な副業の見極め方について継続的に教育し、いつでも相談できる窓口を設けることが不可欠です。これらの対策は、社員個人の被害を防ぐだけでなく、企業のレピュテーションリスクやコンプライアンス違反を防ぐ上でも極めて重要です。