生成AIの進化により、社員の副業は企業が把握しづらい新たなステージに入っています。特別なスキルがなくても始められる手軽さからAI副業は急増していますが、その裏には情報漏洩などの重大なリスクが潜んでいます。この記事では、人事担当者が今すぐ知っておくべきAI副業の具体例から、法務・労務上の注意点、そして会社を守るための規定整備のポイントまでを詳しく解説します。「AI副業」により、企業側が把握しづらい“見えない副業”が急増生成AIの急速な普及により、社員の副業は新たな局面を迎えています。AIツールを使えば、専門知識がなくても短時間で高品質な成果物を生み出せるためです。これまで副業に関心がなかった社員も手軽に参入し、業務がPC内で完結するため、企業側が実態を把握することは極めて困難になっています。こうした“見えない副業”は、情報漏洩や競業避止といったリスクを潜在化させ、企業の知らないところでトラブルに発展しかねません。社員が行っているAI副業の具体例生成AIの進化により、特別な専門知識がなくても始められる副業が増加しています。文章作成やデザイン制作など、これまで専門スキルが必要とされてきた業務も、AIの補助で容易になりました。ここでは、社員が実際に行っている可能性のあるAI副業の具体的な例をご紹介します。ライティング・SNS投稿作成イラストやデザイン制作プロンプト設計や販売スクリプト作成やコンサルティング、ブランディングライティング・SNS投稿作成AIライティングツールを活用し、文章を作成して収益を得る副業です。特別なライティングスキルがなくても、AIが文章の構成案作成から執筆までを補助するため、初心者でも参入しやすいのが特徴です。具体的なAI活用の副業例ブログ記事やWebコンテンツの作成企業のオウンドメディアの記事執筆代行SNSの投稿文作成や運用代行本業で培った知識を活かして専門性の高い記事を作成し、高単価な案件を獲得する社員もいます。イラストやデザイン制作画像生成AIを使い、イラストやデザインを制作して販売する副業も広がっています。デザインスキルや絵を描く技術がない社員でも、ツールを使えば高品質な画像を短時間で作成可能です。作成したイラストは、SNSのアイコンやWebサイトの素材、ストックイラストとして販売されます。手軽に始められるため副業として人気があり、独自のテイストを加える工夫で、より多くの収益を得ることも可能です。プロンプト設計や販売AIから質の高いアウトプットを引き出すための指示文(プロンプト)を設計し、販売する副業です。優れたプロンプトは、AIの性能を最大限に引き出すため、それ自体に価値が生まれます。特に、マーケティングやデザインなど特定の業務に特化したプロンプトは専門知識が求められるため、高値で取引される傾向にあります。スクリプト作成やコンサルティング、ブランディングAIの専門知識やプログラミングスキルを持つ社員が行う、より高度な副業です。企業の業務効率化を目的としたAIツールの導入支援や、独自のAIモデル開発を行うコンサルティング業務がこれにあたります。本業で得た知見やスキルを直接的に活用するケースが多く、高単価になりやすいのが特徴です。一方で、本業との関連性が強いため、競業避止や利益相反に該当するリスクが他の副業よりも高まります。人事部が検討すべき社内規定と対応策AI副業の普及は、企業にとって新たなリスク管理の必要性を生じさせます。社員が安心して副業に取り組め、同時に企業資産を守るためには、既存の副業規定を見直し、AIの利用実態に即したルールを整備することが重要です。ここでは、人事が主体となって検討すべき具体的な対応策を解説します。副業申請時の「AI使用有無」の明示勤務時間・業務とのバッティングを避けるルール使用ツールや情報の扱いに関するガイドライン情報漏洩リスクを防ぐための教育と啓発副業申請時の「AI使用有無」の明示従来の副業申請制度では、社員によるAIツールの使用実態を把握することは困難です。そこで、副業の申請時に以下のような項目を設けることが有効です。申請書への追加項目例副業におけるAIツールの使用有無使用するAIツールの正式名称AIツールの具体的な利用目的(記事作成・画像生成 など)事前にAIの利用状況を把握することで、情報漏洩や著作権侵害といったリスクを未然に防止できるほか、必要に応じて個別の注意喚起や指導を行うことも可能になります。勤務時間・業務とのバッティングを避けるルール勤務時間中は本業に専念するという原則は、AI副業においても同様です。しかし、AIツールは短時間で成果物を作成できるため、勤務時間中に「少しだけ」といった軽い気持ちで副業を行ってしまう可能性があります。また、本業と類似した業務を副業として行い、業務内容がバッティングするリスクにも注意が必要です。服務規律を維持するため、以下の点を副業規定や就業規則で改めて明確化し、周知徹底しましょう。勤務時間内に副業を行わないこと会社のPCやネットワーク等の資産を副業目的で使用しないこと本業の業務と競合する、あるいは利益相反につながる副業は行わないことこれらのルールを設けることで、本業への支障を防ぎ、企業の資産を不正利用から守ります。使用ツールや情報の扱いに関するガイドラインAI副業における最大のリスクの一つが、機密情報の漏洩です。社員が業務で得た情報をAIツールに入力した場合、その情報がAIの学習データとして利用され、外部に流出する恐れがあります。こうした事態を防ぐため、AIツールの利用に関する明確なガイドラインを策定し、全社員に遵守させる必要があります。ガイドラインに盛り込むべき内容会社の機密情報、個人情報、顧客情報をAIに入力しない業務で得たノウハウや社外秘の資料を入力しない利用するAIツールの利用規約を確認し、情報がどう扱われるか理解する社員が安全にAIを活用できるよう、具体的な禁止事項を示すことが企業の重要な責務といえるでしょう。情報漏洩リスクを防ぐための教育と啓発規定やガイドラインを整備するだけでは、リスクを完全に防ぐことはできません。社員一人ひとりがAI利用のリスクを正しく理解し、自律的に行動できるよう、継続的な教育と啓発活動が求められます。具体的な教育・啓発活動の例AIによる情報漏洩や著作権侵害の事例を共有する研修会社のガイドラインやルールに関する定期的な講習AI利用に関する疑問や不安を相談できる窓口ルールで縛るだけでなく、社員の知識と意識を向上させる取り組みを通じて、トラブルを未然に防ぐ企業文化を醸成することが重要です。AI副業における労務・法務上のポイントAI副業に関しては、人事担当者が法的な観点から正しく理解し、備えるべきポイントは多岐にわたります。これらを事前に整理し、就業規則やガイドラインに反映させることで、予期せぬトラブルやリスクを回避することが可能です。ここでは、特に注意すべき3つのポイントを解説します。機密情報・著作権・成果物の帰属競業・利益相反の線引きと判断軸副業に起因するトラブル発生時の企業責任機密情報・著作権・成果物の帰属AI副業において、まず整理すべきは「情報」と「成果物」の扱いです。社員が会社の機密情報や顧客データをAIツールに入力すれば、重大な情報漏洩に繋がる可能性があります。また、AIが生成したコンテンツが、意図せず他社の著作権を侵害してしまう可能性も否定できません。さらに、AIによる成果物の著作権が誰に帰属するのかは、法整備が追いついていないグレーな領域です。企業としては、以下の点を規定で明確にし、社員に遵守を求める必要があります。会社の情報資産をAI副業に利用しないこと他者の著作権を侵害しないよう注意を払うこと副業で得た成果物の権利は原則として副業を行う本人に帰属すること競業・利益相反の線引きと判断軸AIを活用することで、社員の副業が本業と競合し、企業の利益を損なう「競業」や「利益相反」に該当するリスクが高まります。例えば、自社の営業ノウハウを学習させたAIを使い、同業他社にコンサルティングを行うといったケースが考えられます。どこからが許されない競業・利益相反にあたるのか、その線引きは非常に難しい問題です。そのため、企業はあらかじめ明確な判断基準を設け、社員に示しておく必要があります。競業・利益相反の判断基準例副業の内容が自社の事業領域と直接競合していないか自社の顧客や取引先を対象とした副業ではないか本業で得た公になっていない専門知識やノウハウを利用していないかこれらの基準を副業申請の際に確認することで、企業は自社の利益を守ることができるでしょう。副業に起因するトラブル発生時の企業責任原則として、副業は社員個人の責任で行うものであり、そこで発生したトラブルに企業が責任を負うことはありません。しかし、例外的に企業が「使用者責任」を問われるケースがあり、注意が必要です。企業が責任を問われかねないケース会社のPCやソフトなどを利用して副業を行った場合会社の肩書や地位を利用して信頼性をアピールした場合副業の内容が客観的に見て本業と密接に関連している場合こうした事態を避けるためにも、副業における会社資産や肩書の利用を明確に禁止し、本業と副業は完全に分離させるルールを徹底することが極めて重要です。【まとめ】AI副業との健全な共存にはルール整備が不可欠AI副業は、企業にとって情報漏洩などの新たなリスクをもたらす一方で、社員のスキルアップに繋がる可能性も秘めています。まずはAIの利用実態に即した副業規定やガイドラインを整備し、社員への周知を徹底することが重要といえるでしょう。事前にリスクを管理してトラブルを未然に防ぐことが、社員が安心して能力を発揮できる健全な職場環境の維持につながります。