社員の「在宅ワーク」での副業について、実態が見えにくく対応に悩む人事担当者の方も多いのではないでしょうか。働き方の多様化は、社員に新たなスキルアップの機会を与える一方で、企業には情報漏洩や労務管理の複雑化といったリスクをもたらします。本記事では、在宅ワーク型副業の具体的な種類から、潜むリスク、そしてトラブルを未然に防ぐためのルール作りのポイントまでを、網羅的に解説します。社員が実際に取り組んでいる「在宅ワーク型副業」の実態働き方の多様化に伴い、社員の副業もオフィスへの出社を前提としない「在宅ワーク型」が主流となりつつあります。PCやスマートフォンさえあれば、専門スキルを活かすものから隙間時間で完結するものまで、その種類は多岐にわたります。企業側からは実態が見えにくいため、人事担当者としては、まずどのような副業が存在するのかを把握しておくことが重要です。ここでは代表的な在宅ワーク型の副業をご紹介します。クラウドソーシングによるWebライティング・編集動画編集・SNS運用代行など、スマホで完結する副業オンライン講師・占い・語学サポートなど個人サービス型副業EC運営やせどり、副業的ネットビジネスクラウドソーシングによるWebライティング・編集クラウドソーシングサイトの普及により、Webライティングや編集業務は在宅副業の代表格となりました。特別な資格が不要で、パソコンがあれば時間や場所を選ばず始められる手軽さが人気の理由です。本業で培った専門知識や文章作成スキルを活かしやすいことも特徴です。具体的には、以下のような業務が挙げられます。Webメディアの記事やコラム執筆メールマガジンの作成インタビュー音声の文字起こし文章の校正や編集社員のスキルアップにつながる可能性がある一方、納期に追われて長時間労働になりやすい側面もあります。人事としては、本業への影響が出ていないか注意を払いたい副業の一つといえるでしょう。動画編集・SNS運用代行など、スマホで完結する副業スマートフォンの高性能化やアプリの進化により、スマホ一つで完結する副業も増加しています。特に若手社員にとっては、プライベートで慣れ親しんだスキルを活かせるため、抵抗なく始めやすいのが特徴です。企業や個人の依頼を受け、場所を選ばずに取り組める手軽さから人気を集めています。具体的な業務内容は以下の通りです。YouTubeやTikTok向けの動画編集企業のSNSアカウントの投稿作成・運用代行動画のサムネイル画像作成これらの副業は、社員のクリエイティブな能力を伸ばす良い機会になり得ます。ただし、SNSでの発信は企業のレピュテーションに影響を及ぼすリスクも含むため、人事としては活動内容をある程度把握しておく必要があるでしょう。オンライン講師・占い・語学サポートなど個人サービス型副業自身の専門知識や特技を活かし、個人向けにサービスを提供する副業も一般的になりました。社員の得意分野が直接活かされるため、自己実現やモチベーション向上に繋がりやすいというメリットがあります。以下は個人サービス型副業の具体例です。プログラミングやデザインの個人レッスン語学のオンラインレッスンキャリア相談やコーチング趣味を活かした占い、ハンドメイド講座社員の専門性が高まるポジティブな側面がある一方で、個人間の直接契約が中心となるため、トラブルが発生した際に企業側が状況を把握しにくいという点には注意が必要です。EC運営やせどり、副業的ネットビジネスECサイト作成サービスやフリマアプリの普及により、個人が物販ビジネスを手掛けるハードルは大きく下がりました。自作のハンドメイド作品を販売するものから、商品を安く仕入れて高く売る「せどり」まで、その形態は様々です。手軽に始められる一方で、在庫管理や梱包・発送といった物理的な作業も発生します。ネットビジネスは、社員のマーケティングスキルやビジネス感覚を養う可能性があります。しかし、古物商許可といった許認可や確定申告など、法規制や税務の知識が求められるため、社員が法的な問題を抱えるリスクがないか、企業として注意を払うべき分野といえるでしょう。見えにくいからこそ怖い。在宅副業に潜む企業リスク在宅で行われる副業は、社員のプライベートな領域で行われるため、企業側がその実態を正確に把握することは困難です。しかし、見えないからといって放置してしまうと、企業にダメージをあたえるような事態に発展する可能性もゼロではありません。ここでは在宅副業に潜む企業リスクを4つ解説します。業務時間との境界が曖昧になるChatGPTや社内知識の流用による情報漏洩リスク副業での発言や発信が企業ブランドに悪影響を及ぼす可能性匿名での活動が申告されず、トラブルの火種に業務時間との境界が曖昧になる在宅での副業は、本業との時間的な切り分けが難しく、社員の労務管理を複雑にする大きな要因となります。オフィス勤務とは異なり、自宅では本業の就業時間中に副業の連絡に対応したり、少しの空き時間で副業の作業を進めてしまったりすることが容易にできてしまいます。その結果、実質的な長時間労働に繋がり、社員の心身の健康を損なう恐れがあります。また、本業への集中力が散漫になり、生産性の低下や業務上のミスを誘発することも考えられます。企業としては、労働時間管理のルールを改めて周知徹底すると共に、社員の業務負荷が過大になっていないか、注意深く見守る必要があるでしょう。ChatGPTや社内知識の流用による情報漏洩リスク副業における業務効率化のため、ChatGPTをはじめとする生成AIが安易に利用されることで、情報漏洩のリスクが高まっています。例えば、本業で得た機密情報や顧客データ、社外秘の資料などを生成AIへ入力してしまうケースです。また、社員が本業を通じて培った専門的なノウハウや社内独自の知識を、無意識のうちに副業で活用してしまうことも重大なリスクといえます。これらの行為は、意図せずして企業の競争力の源泉である貴重な情報を外部に流出させることに繋がりかねません。秘密保持義務に関する誓約書の再確認や、情報セキュリティ研修の実施が不可欠でしょう。副業での発言や発信が企業ブランドに悪影響を及ぼす可能性SNS運用代行や個人の情報発信といった副業において、社員の不適切な言動が企業のブランドイメージを大きく損なうリスクがあります。たとえ匿名のアカウントであっても、過去の投稿や交友関係から本人が特定され、所属企業が明らかになるケースは少なくありません。特に注意すべき発信内容特定の個人や団体を誹謗中傷する内容公序良俗に反する不適切な投稿自社の内部情報や取引先の情報を匂わせる発言これらの発信が一度「炎上」すると、企業に対する社会的な信頼が失墜し、顧客離れや採用活動への悪影響など、事業に深刻なダメージを与える可能性があります。匿名での活動が申告されず、トラブルの火種に匿名で活動できる在宅副業は、社員が「会社にバレないだろう」と考え、無申告のまま行われやすい傾向にあります。企業が社員の副業を把握できていない状態は、様々なトラブルの温床となります。例えば、競業他社に利益をもたらすような業務を内密に行っていたり、副業で得た所得を申告せず税務上の問題を抱えたりするケースです。また、個人間の取引でトラブルに巻き込まれた際に、会社が全く関知できないという事態も起こり得ます。これらの問題が発覚した場合、企業は対応に追われるだけでなく、管理体制の不備を問われる可能性もあるため、申告制度の重要性を改めて周知することが求められます。トラブルを未然に防ぐための“境界線”の引き方社員の副業を容認する上で、企業リスクを管理するためには、明確なルールの設定が不可欠です。何が許容され、何が問題となるのか。その”境界線”を企業側が主体的に引き、就業規則やガイドラインとして明文化することが、無用なトラブルを未然に防ぐための第一歩となります。ここでは具体的な境界線の引き方について解説します。「本業に影響しない副業」の定義づくり「スキルシェア」と「競業」のグレーゾーンを判断するポイント「申告不要」の範囲と、「禁止すべき副業」の基準設定「本業に影響しない副業」の定義づくり副業を許可する上で最も重要な「本業に影響しないこと」という条件は、解釈の違いを生まないよう具体的に定義する必要があります。曖昧なままでは、トラブルの元になりかねません。企業は、本業への影響について、以下のような具体的な基準を設けると有効です。会社の所定労働時間外に行うこと遅刻や業務中の集中力低下など、翌日の業務に支障をきたさないこと勤務時間中に副業の連絡に対応したり、会社のPCを使用したりしないことこれらの定義を明確にすることで、社員は安心して副業に取り組め、企業は労務管理上のリスクを低減できます。「スキルシェア」と「競業」のグレーゾーンを判断するポイント社員が本業で得たスキルを副業に活かすことは、スキルアップにつながる一方で、企業の利益を損なう「競業」と紙一重になる危険性をはらんでいます。特に専門性の高い職種の場合、その判断は非常にデリケートです。競業にあたるか否かを判断するためには、以下のようなポイントを基準として設けることが有効です。副業の相手が、自社の直接的な競合企業ではないか自社の顧客や取引先に対して、個人的に営業活動を行っていないか自社が開発した技術やノウハウを、副業で直接的に利用していないかこれらの基準を設けることで、社員の成長機会を不必要に奪うことなく、企業の競争力の源泉である事業上の利益や独自ノウハウを守ることが可能になります。「申告不要」の範囲と、「禁止すべき副業」の基準設定全ての副業を一律に「要申告」とすると、人事担当者と社員双方の負担が過大になります。効率的な管理のためには、副業の内容に応じて対応のレベル分けをすることが現実的です。企業の副業ポリシーとして、申告が不要な範囲と、明確に禁止する副業の基準をあらかじめ設定しておきましょう。申告が不要な副業の例明確に禁止すべき副業の例・不動産投資や株式投資など・競合他社での業務このように基準を明示することで、社員は安心して副業に取り組むことができ、人事はリスクの高いケースの把握と管理に集中できます。【まとめ】社員の成長と企業リスク管理を両立させるために在宅ワークの副業は、社員のスキルアップにつながる可能性がある一方で、情報漏洩や労務管理の複雑化といった企業リスクと隣り合わせです。人事担当者としては、副業に関する明確なルールを設けて“境界線”を引くことが、トラブルを未然に防ぐ鍵となります。適切なガイドラインを整備することで、企業はリスクを管理しつつ、社員が安心して能力を発揮できる環境を構築できるでしょう。