社員の副業・兼業に対する企業の対応が注目される中、2023年実施の厚生労働省のアンケート調査結果からその実態が見えてきました。参照:公益財団法人 産業雇用安定センター「従業員の「副業・兼業」に関するアンケート調査結果の概要」この記事では、副業を認める企業の割合や目的、またその一方で企業が直面している課題について詳しく解説します。「副業・兼業のメリット」や「受け入れ時の注意点」について知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。社員の副業・兼業を認める企業は3割「雇用による副業・兼業」を認めている企業は25.7%、さらに今後認める予定の企業は6.2%で、合わせて約3割に達していることがわかりました。一方、副業・兼業を「認める予定はない」と回答した企業は27.7%、「検討していない」とした企業は23.9%で、これらを合計すると約5割の企業が副業・兼業に対して慎重な姿勢を示しています。厚生労働省が2018年に作成した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」により、副業・兼業を認める動きが広がりつつあります。しかし、現時点では副業・兼業を認める企業が3割程度にとどまっている現状が浮き彫りとなりました。副業を導入している企業の目的副業を導入している企業の目的として、「多様な働き方の実現」「従業員のモチベーション向上」「自律的なキャリア形成」が上位に挙げられています。従業員にとっては、時間効率の向上や所得増加といった直接的なメリットがある一方で、企業側も従業員の意欲向上など、副業や兼業がもたらすプラスの効果を評価していることがうかがえます。多様な働き方の実現副業を認めることで、社員は自身のライフスタイルやスキルに合わせた多様な働き方を選択できるようになります。時間や場所にとらわれない柔軟な働き方が可能になり、ワークライフバランスの向上にも繋がるでしょう。企業にとっても、多様な人材の確保や優秀な人材の流出防止に繋がるメリットがあります。従業員の自律的なキャリア形成副業を通じて、社員は社内では得られない経験やスキルを習得できます。新たな知識や人脈を築くことで、キャリアの幅を広げ、自律的なキャリア形成を促進することが可能です。これは、社員の成長意欲を高め、企業全体の活性化にも繋がることが期待できます。モチベーション向上副業は、社員に収入増加の機会を提供するだけでなく、新たな挑戦や自己実現の場をもたらします。社員はやりがいを感じ、仕事へのモチベーションが向上、職場全体に良い影響を与える可能性があります。また、社外で培った知識やスキルを本業に活かすことで、組織全体の成長を促す相乗効果も期待できるでしょう。副業・兼業の雇用形態で社外から人材を受け入れているのは2割次に、自社が他社の従業員を「副業・兼業」として受け入れる意向について調査した結果、受け入れると回答した企業は約2割にとどまりました(「受け入れる」11.4%、「受け入れる予定」5.7%)。この割合は、自社の社員に副業・兼業を認める企業の約3割という割合よりも低く、他社の従業員を受け入れることに対して一定の抵抗感がある企業が多いことを示しています。副業・兼業の雇用形態で社外から人材を「受入れる予定はない」「検討していない」が7割自社に他社の従業員を「副業・兼業」として受け入れる意向について、「受け入れる予定はない」および「検討していない」と回答した企業は全体の約7割にのぼりました。従業員規模別に見ると、5000人以上の大企業では「受け入れている」または「受け入れる予定」の割合が30.9%と、他の規模の企業に比べやや高い傾向が見られます。ただ、100人未満の小規模から5000人以上の大規模企業まで、それほど大きな違いはなく、全体的に他社の従業員を副業・兼業として受け入れることに消極的なことがうかがえます。副業・兼業の雇用形態で従業員を受け入れる目的他社の従業員を副業・兼業の形で受け入れる企業は、受け入れないとする企業に比べまだ少数派です。しかし、そこには、「人材確保」や「生産性向上」など、いくつかの明確な目的があります。人材確保優秀な人材の獲得競争が激化する中、副業・兼業という雇用形態は、企業にとって貴重な人材獲得の手段となります。正社員として雇用することが難しい人材でも、副業・兼業であれば受け入れることができ、人材プールの拡大に繋がります。特に、専門的なスキルや知識を持つ人材を確保したい場合に有効です。副業・兼業として他社の従業員を受け入れることにより、フルタイムの雇用では難しい即戦力の人材を効率よく採用できるのがメリットといえるでしょう。自社で活用できる他社の知識・スキルの習得副業・兼業として他社の従業員を受け入れることで、社内にない知識やスキルを導入できるのもメリットの一つです。異なる企業で培われたノウハウや視点を社内に取り入れることで、イノベーションや既存事業の改善に繋がる可能性があります。例えば、最新のマーケティング手法を導入したい場合、その分野に精通した他社のマーケターを副業・兼業として迎え入れることで、効率的にノウハウを吸収し、自社のマーケティング戦略に活かすことが可能となります。このように、外部の知見を積極的に取り入れることで、企業の競争力を強化できる可能性があることも、副業・兼業の強みです。生産性向上副業・兼業の従業員は、特定のプロジェクトや業務に特化して雇用することが可能です。そのため、必要な時に必要なスキルを持つ人材を確保でき、業務の効率化や生産性向上に繋がります。例えば、繁忙期だけ業務が増加する部署において、期間限定で副業・兼業の人材を投入することで、正社員の残業時間を削減し、生産性を維持することが可能です。また、新規プロジェクト立ち上げ時など、特定の専門スキルが必要な場合に、ピンポイントで専門人材を副業・兼業として活用することで、プロジェクトをスムーズに進めることができます。正社員の負担を軽減することで、よりコア業務に集中できるのも、副業・兼業を受け入れる大きなメリットといえるでしょう。自社の従業員の「副業・兼業」における課題従業員の副業・兼業を認めることは、企業にとって多くのメリットがある一方で、様々な課題も存在します。アンケートの結果、自社の従業員の「副業・兼業」を認める場合、以下のような課題があるとの回答がありました。社内業務への支障(485件)機密情報流出のリスク(470件)技術・ノウハウの流出のリスク(320件)人材の流出(236件)副業・兼業を行うことで、従業員の疲労が蓄積し、本業である社内業務に支障が出る可能性があります。副業の内容や時間、健康状態などを定期的に確認し、必要に応じて業務量を調整するなどの対策が重要です。また、副業・兼業先で、自社の機密情報や顧客情報が流出するリスクもぬぐい切れません。就業規則などで機密情報の取り扱いに関する規定を明確化し、従業員への教育を徹底する必要があります。他社の従業員を「副業・兼業」の雇用形態で受け入れる場合の課題一方、他社の従業員を「副業・兼業」で受け入れる場合の課題としては、以下のような回答がありました。労務管理の困難さ(732件)従業員の健康管理(546件)対象業務の切出し・選定が難しい(151件)「副業・兼業」で外部人材を活用するノウハウがない(148件)職場の雰囲気の悪影響(135件)他社の従業員を副業・兼業という形で受け入れる場合、労務管理が複雑になるとの回答が多数あがりました。労働時間や報酬の管理、社会保険や税金の手続きなど、通常の従業員とは異なる対応が必要となるため、労務管理の負担が増加する点を課題と感じている企業が多いようです。【まとめ】社員の副業・兼業に関する現状と課題厚生労働省のアンケート調査結果から、社員の副業・兼業に対する企業の取り組みや課題が明らかになりました。副業・兼業を認める企業は増加傾向にある一方、労務管理や情報漏洩リスクなど、企業が抱える課題も少なくありません。企業はこれらの課題に適切に対処しながら、副業・兼業制度を効果的に活用していくことで、自社の競争力をアップすることも可能となるでしょう。