近年、社会は大きな変化を迎え、働き方や人材育成に対する考え方にも変化が生じています。特に、Z世代と呼ばれる我々1996年以降生まれの世代は、副業に対して従来の世代とは異なる意識を持っていることが特徴です。本記事は、慶應大学総合政策学部でESG財務戦略を専攻し、上場企業の人的資本情報の研究を専攻しながら、個人として「Unipos社でのインターン」「受験指導とオーナーシップ指導を両立する塾経営(佐藤塾)」の2つの副業を経験する現役慶應生の視点から、副業に対する現状の日本企業への課題を紹介するものです。Z世代現役慶應生の"副業"に対する個人的見解Z世代の中でも私たち現役大学生は、一見すると普通の学生生活を送っていますが、その裏で多くは"副業"を行っています。副業とは単なるアルバイトとは違い、自己成長やキャリア形成に直結した事業活動であり、私たちはそれを大学生活と並行して続けることに価値を見出しています。私自身も、大学在籍中から佐藤塾という塾事業を運営しており、その経験が自分の視野を広げ、実践的なスキルを身につける機会となりました。 Z世代からみた企業の"副業"意識に対するよくある疑問私たちZ世代が抱く最大の疑問は、「なぜ企業は副業を認めないのか?」「なぜ各企業は副業制度に関する説明がないのか?」ということです。副業が自身の成長に寄与すると感じている私たちからすると、副業を制限する企業の理由が理解し難いのです。また、副業申請が必要な理由や背景についても、自分の事業の存続が企業の許可に左右されることへの疑問や不安があります。さらに、現場社員と人事の副業に対する見解の差異により、内定時と入社時でのギャップが生じやすくなっています。なぜ副業を申請しなければならないのかを説明できますか?このような疑問や不安を抱くZ世代に対し、企業は副業制度の透明性と公平性を確保することが求められています。Z世代は社会との関わり方、働き方を再定義しているため、企業も従来の人材育成や人事制度を見直し、時代の変化に対応する必要があります。副業を認めることは、当たり前の従業員の自由を認めるだけでなく、新たな視点やスキルを企業内に取り込むことで、組織全体の競争力を向上させる手段でもあります。人的資本として大いに価値があります。つまり、Z世代が期待する副業制度は、企業の人的資本経営への再評価にも直結しているのです。企業が真剣かつ責任を伴ってこの問題に取り組むことで、Z世代との良好な関係を築くことができ、長期的な組織の成長に繋がる事を本記事内で、独自の研究結果を基に解説します。従業員エンゲージメントと業績の正の相関関係私の卒業論文では、「従業員エンゲージメントを高めるために副業を採用することは有効なのか」というテーマを掘り下げました。日本は全世界で「熱意あふれる社員」の割合が最下位クラスであり、その改善が求められています。※従業員エンゲージメントと業績には正の相関関係が存在し、個人や組織のパフォーマンスに大きく寄与するという事実があります。この視点から、副業と従業員エンゲージメントの関係性を考えることは重要です。私の卒業論文では、リサーチクエスチョンを2つに分けて考察しました。それは、「副業が従業員資源としての有効性を持つか」、「副業がジョブクラフィティングという観点から有効か」という2つの問いです。先行研究によると、「副業がエンゲージメントに対して正の相関があることを示唆している」「副業がワーク・エンゲージメントを高めることを示唆している」ということがわかります。※副業がエンゲージメントに正の影響を与え、エンゲージメントを上げる手段として有効だったのです。副業とエンゲージメントに正の相関があることが示唆された2つの研究手法を用いて、リサーチクエスチョンを明らかにしました。第1に、分析対象を2023年3月期末決算企業2,243社の有価証券報告書とし、エンゲージメント情報や副業情報の開示割合をサーベイした。第2に、その中でも独自かつ明確な開示をしている3企業(㈱丸井グループ、㈱NTTデータ、㈱京葉銀行)と人的資本開示が豊富な上位30企業のテキスト分析を行い、比較しました。その結果、従業員資源の面からは、副業とエンゲージメントに正の相関があることが示唆されました。従業員を仕事の資源と捉えている会社が散見され、それらの企業は、人的資本経営を基盤とした人材戦略と経営戦略の紐付きが強い傾向にありました。一方で、「ジョブクラフティングの面からは、副業とエンゲージメントに正の相関があることが示唆することが難しかった。」副業がチャレンジの要素を含んでいると明記している企業はありませんでした。【後編】昭和、平成企業が副業を認める意味:Z世代の現役大学生からの警鐘と人的資本の見直し佐藤颯太人的資本やESG経営を研究として専攻し、2024年3月に慶應義塾大学総合政策学部卒業する。卒業後、大手人材会社のPdM(企画職)に就任する。個人では、受験指導とキャリア指導の両立を目指す佐藤塾を経営する。他にも人的資本情報を格付けするUniposでのインターンや吃音症支援活動にも従事。※参考文献島津(2015)「ワーク・エンゲイジメントに注目した個人と組織の活性化」『日本職業・ 災害医学会会誌』Vol.63,No.4pp.205-209.柴田(2018)「エンゲージメント経営」『日本能率協会マネジメントセンター』pp.5. 経済産業省(2022)「未来人材ビジョン」『経済産業省』pp33.36検校文也(2021)「副業の実証実験:企業側の視点から」『慶應義塾大学商学会』萩原牧子・戶田淳仁(2016)「『複業』の実態と企業が認めるようになった背景(特集兼業・ 副業)」『日本労働研究雑誌』58 巻 11 号,pp.46-58.LiSun&ChanchaiBunchapattanasakda(2019) 「"EmployeeEngagement:ALiteratureReview,"InternationalJournalofHumanResourceStudie s」『Macro think Institute』vol.9(1),pages63-80,December.一般社団法人日本経済団体連合会(2022)「副業・兼業に関するアンケ―ト調査結果」『一 般社団法人日本経済団体連合会』川上淳之(2021)「「副業」の研究多様性がもたらす影響と可能性」『慶應義塾大学出版 会』就職四季報女性版(2024 年版)(2023)「業界別・特徴的な勤務制度 1,132 社」『東洋経済新 法社』神田正樹(2019)「ブランド企業における従業員エンゲージメント:主体資源に基づくエン ゲージメント概念へのアプローチ」『商学研究論集』50 号村瀬次彦(2023)「6 章 人的資本とイノベーションの関係:中外製薬の事例小方信幸 編 実践人的資本経営」『中央経済社』pp131-154齋藤・武田(2014)「テキストマイニングによる経営理念の分析」『The Society for Economic Studies The University of Kitakyushu Working Paper Series』No.2013-3石井僚・大山拓也(2022)「日本語版従業員エンゲージメント尺度の作成と妥当性の検討」 『公益社団法人 日本心理学会』pp779株式会社 Unipos(2023)「2024 年 3 月期第 1 四半期決算説明資料」『株式会社 Unipos』pp33,35. 東洋製罐グループホールディングス株式会社(2023)「統合報告書 2023 未来をつつむ」『東洋製罐グループホールディングス株式会社』pp50.37株式会社丸井グループ(2023)「有価証券報告書」『株式会社丸井グループ』 株式会社 NTT データ (2023)「有価証券報告書」『株式会社 NTT データ』 株式会社京葉銀行 (2023)「有価証券報告書」『株式会社京葉銀行』WEB 資料ギャラップ社(2022)「StateofGlobalWorkplace2022Report」2023 年 12 月 16 日アクセスhttps://www.cca-global.com/content/latest/article/2023/05/state-of-the-global-workplace-2022-report-346/WTW(2019)「エンゲージメント:backtobasics!〜この 10 年間、従業員意識調査の焦点はなぜ「エンゲージメント」なのか?〜」2023 年 12 月 16 日アクセスhttps://www.wtwco.com/ja-jp/insights/2019/10/engagement-back-to-basics中室牧子(2022).「「人への投資」開示拡大従業員満足度は企業の 2 割公表」日本経済新 聞.2023 年 8 月 3 日アクセス https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC229BU0S2A220C2000000/川内正直(2023)「従業員エンゲージメント向上は目的ではなく手段企業価値につながる人 的資本情報開示に向けて」.HRzine.2023 年 8 月 3 日アクセスhttps://onl.bz/KQr7Nwdリクルートマネジメントソリューションズ「組織課題の可視化ツール|エンゲージメント・ドライブ」2023 年 12 月 16 日アクセス https://www.recruit-ms.co.jp/service/servicedetail/orgkey/A030/?theme=surveyAngelaPaul(2021)「Whyisemployeeengagementimportant?」『ウイリス・タワーズワトソ ン』2023年12月16日アクセ スhttps://www.wtwco.com/en-us/insights/2021/05/why-is-employee-engagement-important総務省(2014)「日本標準産業分類」『総務省』2023年12月16日アクセス https://www.soumu.go.jp/toukeitoukatsu/index/seido/sangyo/02toukatsu0103000023.html株式会社NTTデータグループ(2022)「育成」『株式会社NTTデータグループ』2023年12月16日アクセスhttps://www.nttdata.com/global/ja/sustainability/employee/training/株式会社Unipos(2023)「人的資本経営の成功事例!田中弦の「統合報告書を全部読んでわかった人的資本開示」ウェビナーレポート」『株式会社Unipos』2023年12月16日アクセスhttps://media.unipos.me/talk-about-human-capitalwithyuzurutanaka_vol-1「企業内容等の開示に関する内閣府令等改正の解説」『金融庁』2023年12月 https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20230523/01.pdf電通ウェブサイト(2022)「統合諸表」『株式会社電通』2023年12月16日アクセスhttps://www.dentsu.co.jp/labo/togo_syohyo/index.html「未来を牽引するZ世代の特徴と傾向について インサイトを公開」『株式会社SVPジャパン』2023年12月16日アクセスhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000096720.html