1. 序章: 前編の再確認と後編の目的説明前編では、Z世代の視点から研究結果を踏まえた副業に対する意識や課題を紹介しました。後編では、企業側の視点を中心に、私自身の実体験を基に従業員のエンゲージメントと人的資本開示について掘り下げていきます。2. 研究活動より、企業の社外資料に対する見解研究会では、企業と協働で「社外資料をZ世代目線からESG観点を重視し作り直す」をミッションに協働研究を行いました。2つの企業と半年ずつ研究を行いました。その中で感じた2つの見解があります。1.目的と手段をストーリーテリングで語ることが重要であること社外資料の発行が手段であるとき、目的として何をおくのか、それをどのようなストーリーの中で語るのかこそが社外資料の成す価値だと感じました。それは、"副業"を導入する場合も同様です。副業導入の理由や目的は各社で異なるべきであり、それを社員を含めたステークホルダーに対して公言する必要もあります。2.社外資料に現場・Z世代目線が欠けていること資料の内容が非常にメタ的であることや主語が社員ではなく弊社であることが見受けられました。つまり、あくまで経営目線であり従業員や株主目線での言及が少ないのです。それは"副業"を導入する場合も同様です。副業を導入することで、誰にどんなメリットやデメリットがあるのかを経営目線だけでなく、様々な目線で言及する必要があります。その結果、従業員や株主のモチベーションに繋がることに期待できるのです。3. 塾経営より、Z世代の副業に対する意識と昭和、平成企業とのギャップ私の視点から言えば、Z世代とは曖昧な世代区分であるものの、現在の大学生世代は、副業を行うことはごく当たり前と考えている人が多いと実感しています。その形は、個人事業主や法人、インターンやフリーランスなど多岐に渡ります。私自身も慶應SFCに特化した塾の経営を大学1年生から行っています。しかし、企業が副業制度や副業の有無を曖昧な理由で決めているケースが散見されます。その結果、新卒社員になる際に、数年間も継続してきた副業を企業側の理由のみで継続できない恐れもあります。そのリスクに関して、学生と人事の間でギャップが生じているのです。4. 人的資本開示の現状と問題点私はUnipos社のインターンにて、日本上場企業の1000社以上の社外資料に目を通しました。その中でも、人的資本に関する最低限の開示しかしていない企業が大部分を占めており、それが副業やエンゲージメント情報の開示義務がほとんどない現状を生んでいます。特にZ世代にとっては、自身が所属する可能性のある企業の人的資本情報が十分に開示されていないことは大きな課題となっています。現大学生は、新卒向けのサイトだけではなく、社外資料に目を通す学生も少なくありません。5. 人的資本に注力する企業の2つの共有要素特に人的資本に関する開示に注力している企業には、2つの共通要素があることがわかりました。第1に、経営戦略と人事戦略が正しく紐づいていることを開示していました。第2に、独自の指標や目標を定めていました。これらは高く評価されるべきであり、他の企業も参考にすべきです。 データの収集ができておらず開示ができないことは言い訳であり、データがない中でも自社にとっての人的資本経営の方向性を定め、責任を伴った開示をすることが最善です。6. Z世代の視点から見た副業の可能性と意義の再評価Z世代の視点からみれば、社外での経験は自己成長や新たな視点の獲得、社外ネットワークの構築など貴重な機会です。つまり、社員側と企業側の副業に関する位置付けや理解をすり合わせることが非常に重要です。企業はZ世代が副業を積極的に行いたいと考える背景を理解し、その可能性を引き出せる就労環境が必要不可欠です。また、日本人口のZ世代が占める割合は、約15%であるものの、国際的には全体人口の約32%を占める割合をZ世代は誇っています。新卒採用の強化や事業のグローバル化を見据えている日本企業は今後もZ世代目線を重視する必要性が高いです。7. 結論: 人的資本開示の必要性と副業の受け入れについて結論、今後もますます、人的資本経営の設計、それに伴う人的資本開示を行っていく必要性は増していきます。また、その中で副業という手段は社員や企業にとっても大きな可能性を秘めていることを再認知する必要があります。若年層の人口が激減していく中でも、若い世代を獲得しサクセッションを成功させたい昭和、平成に創業された企業ほど現状の人的資本開示の課題を見直し、若年層で一般化している副業を受け入れることが、従業員のエンゲージメントや企業価値を高めていける可能性が高いと言えます。佐藤颯太人的資本やESG経営を研究として専攻し、2024年3月に慶應義塾大学総合政策学部卒業する。卒業後、大手人材会社のPdM(企画職)に就任する。個人では、受験指導とキャリア指導の両立を目指す佐藤塾を経営する。他にも人的資本情報を格付けするUniposでのインターンや吃音症支援活動にも従事。参考文献就職四季報女性版(2024 年版)(2023)「業界別・特徴的な勤務制度 1,132 社」『東洋経済新 法社』神田正樹(2019)「ブランド企業における従業員エンゲージメント:主体資源に基づくエン ゲージメント概念へのアプローチ」『商学研究論集』50 号村瀬次彦(2023)「6 章 人的資本とイノベーションの関係:中外製薬の事例小方信幸 編 実践人的資本経営」『中央経済社』pp131-154齋藤・武田(2014)「テキストマイニングによる経営理念の分析」『The Society for Economic Studies The University of Kitakyushu Working Paper Series』No.2013-3石井僚・大山拓也(2022)「日本語版従業員エンゲージメント尺度の作成と妥当性の検討」 『公益社団法人 日本心理学会』pp779株式会社 Unipos(2023)「2024 年 3 月期第 1 四半期決算説明資料」『株式会社 Unipos』pp33,35. 東洋製罐グループホールディングス株式会社(2023)「統合報告書 2023 未来をつつむ」『東洋製罐グループホールディングス株式会社』pp50.37株式会社丸井グループ(2023)「有価証券報告書」『株式会社丸井グループ』 株式会社 NTT データ (2023)「有価証券報告書」『株式会社 NTT データ』 株式会社京葉銀行 (2023)「有価証券報告書」『株式会社京葉銀行』WEB 資料ギャラップ社(2022)「StateofGlobalWorkplace2022Report」2023 年 12 月 16 日アクセスhttps://www.cca-global.com/content/latest/article/2023/05/state-of-the-global-workplace-2022-report-346/WTW(2019)「エンゲージメント:backtobasics!〜この 10 年間、従業員意識調査の焦点はなぜ「エンゲージメント」なのか?〜」2023 年 12 月 16 日アクセスhttps://www.wtwco.com/ja-jp/insights/2019/10/engagement-back-to-basics中室牧子(2022).「「人への投資」開示拡大従業員満足度は企業の 2 割公表」日本経済新 聞.2023 年 8 月 3 日アクセス https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC229BU0S2A220C2000000/川内正直(2023)「従業員エンゲージメント向上は目的ではなく手段企業価値につながる人 的資本情報開示に向けて」.HRzine.2023 年 8 月 3 日アクセスhttps://onl.bz/KQr7Nwdリクルートマネジメントソリューションズ「組織課題の可視化ツール|エンゲージメント・ドライブ」2023 年 12 月 16 日アクセス https://www.recruit-ms.co.jp/service/servicedetail/orgkey/A030/?theme=surveyAngelaPaul(2021)「Whyisemployeeengagementimportant?」『ウイリス・タワーズワトソ ン』2023年12月16日アクセ スhttps://www.wtwco.com/en-us/insights/2021/05/why-is-employee-engagement-important総務省(2014)「日本標準産業分類」『総務省』2023年12月16日アクセス https://www.soumu.go.jp/toukeitoukatsu/index/seido/sangyo/02toukatsu0103000023.html株式会社NTTデータグループ(2022)「育成」『株式会社NTTデータグループ』2023年12月16日アクセスhttps://www.nttdata.com/global/ja/sustainability/employee/training/株式会社Unipos(2023)「人的資本経営の成功事例!田中弦の「統合報告書を全部読んでわかった人的資本開示」ウェビナーレポート」『株式会社Unipos』2023年12月16日アクセスhttps://media.unipos.me/talk-about-human-capitalwithyuzurutanaka_vol-1「企業内容等の開示に関する内閣府令等改正の解説」『金融庁』2023年12月 https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20230523/01.pdf電通ウェブサイト(2022)「統合諸表」『株式会社電通』2023年12月16日アクセスhttps://www.dentsu.co.jp/labo/togo_syohyo/index.html「未来を牽引するZ世代の特徴と傾向について インサイトを公開」『株式会社SVPジャパン』2023年12月16日アクセスhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000096720.html