【原則と例外の逆転】副業自由の原則と制限可能な副業4個条 厚労省モデル就業規則解説

副業自由の原則解説
これまで、ほとんどの企業の就業規則においては副業は禁止されていましたし、おそらく今でもそうした就業規則は珍しいものではありません。そうした規定はおそらく、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」といった定めになっていることでしょう。こうした規定があることは不思議ではなく、何を隠そう、厚生労働省がかつて公表していた「モデル就業規則」においてそのように記載されていました。
しかし、2017年ころから第二次安倍政権において進められてきた「働き方改革」のなかで、副業も含め、労働者により柔軟な働き方の選択肢を認めるよう見直しが図られました。その結果、そもそも労働者が、労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由であることが確認され、政府は副業解禁・推進の立場をとるようになりました(当職も2017年に立ち上げられた「柔軟な働き方に関する検討会」の委員として議論に参加していました。)。
副業の推進について後ろ向きな使用者も多いと思います。しかし、副業推進は、①労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる、②労働者の自律性・自主性を促すことができる、③優秀な人材の獲得・流出の防止ができ競争力が向上する、④労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながるなど、使用者にも多くのメリットがあります。
なお、副業の解禁は政府が突然言い出したわけではありません。もともと労働法の学説上においても、副業等は基本的には使用者の労働契約上の権限の及び得ない労働者の私生活における行為であり、副業等を一律に禁止する規定が無効であることについてはおおむね争いがありませんでした。また裁判においても、企業による副業の禁止を否定する判決はたびたび出されていました。たとえば、下記のようなものがあります。
企業による副業の禁止を否定する判決例
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運送会社が、準社員からのアルバイト許可申請を4度にわたって不許可にしたことについて、後2回については不許可の理由はなく、不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容(慰謝料のみ)された事案(マンナ運輸事件 京都地裁 平24.7.13判決)
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教授が無許可で語学学校講師等の業務に従事し、講義を休講したことを理由として行われた懲戒解雇について、副業は夜間や休日に行われており、本業への支障は認められず、解雇無効とした事案(東京都私立大学教授事件 東京地裁)
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運送会社の運転手が年に1、2回の貨物運送のアルバイトをしたことを理由とする解雇に関して、職務専念義務の違反や信頼関係を破壊したとまでいうことはできないため、解雇無効とした事案(十和田運輸事件 東京地裁 平13.6.5判決)
モデル就業規則の副業・兼業の定めの成り立ち
これらの学説・判例を踏まえて議論した結果、**過去の判例の考え方と矛盾しない形で、厚生労働省の「モデル就業規則」が改定されることになりました。**これにより、原則として副業は自由であり、例外的な場合のみ副業を制限することが可能である、として原則と例外の逆転が生じました。
改定後(2018年1月~)の厚労省モデル就業規則における副業・兼業の定め
第1項においては、これまで裁判例が再三指摘していた、副業・兼業が原則として自由であることが記載されています。
他方、第3項では、例外的に制限できる副業・兼業として、裁判例(小川建設事件 東京地裁 昭57.11.19判決、橋元運輸事件 名古屋地裁 昭47.4.28判決など)で例外的に制限できるとされた事例などを参考として四つの類型が記載されています。
制限可能な副業4個条解説
まず、1号の「労務提供上の支障がある場合」、すなわち、本業への労働契約条の義務に支障が出てくるような副業・兼業は、本業先の企業が制限できます。例えば、長時間労働を余儀なくされる副業や、そもそも本業の所定労働時間と重なっているような副業をすると、本業に対する労働契約上の義務を履行できず、労働契約の内容に違反することになります。
次に、2号の「企業秘密が漏洩する場合」についても当然制限することが可能です。
また、3号の「会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合」についても、違法行為や反社会的行為、その他、本業の名誉を棄損しかねない副業なども制限できます。また、例えば、本業のクライアントに対し、副業として営業をかけるなどの行為も、本業の名誉や信用を傷つけたり、本業との信頼関係を破壊したりする行為となり得ます。
最後に、4号の「競業により、企業の利益を害する場合」についても禁止が可能です。もっとも、この「競業」の範囲については、必ずしも明確に定まるとは限りません。企業が過度に広範に捉えることも、労働者が過度に狭く捉えることもあり得、こうした理解に齟齬があればトラブルが起きることは十分考えられます。実務的には、競業の範囲を可能な限り明確にし、合理的な禁止とならないよう整理しておく必要があります。
副業制度の許可制・届出制
なお、副業等について一律禁止を廃止した場合であっても、①事前に副業等の内容について確認し、許可した場合にのみ認めるもの、②すべて届け出のみさせるもの、③原則として届け出等を要しないが、特定の副業等のみ許可制・届出制とするもの、④事前の許可や届け出は特に求めないもの、といった方法での対応も考えられます。
新しいモデル就業規則においては、事前届出制を採用しており、第3項記載の制限事由に該当するか否かを事前に判断できるよう、制度として担保しています。なお、このように事前に届け出させた上で、問題があれば副業を認めないという対応を採る場合は、実質は許可制とほとんど変わらず、許可を「原則」とするか「例外」とするかといったいわば姿勢の違いにすぎないといえます。もっとも、いずれの場合であっても、使用者による許可が不合理に行われるようであれば、裁判においてその判断が違法とされる可能性があるので注意が必要です。(アルバイト許可申請を不許可にしたことについて不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容された事案として、前記マンナ運輸事件参照)。
使用者がこのモデル就業規則を採用しなければならないわけではありませんが、すでに世の中の動きは副業解禁に舵が切られており、副業禁止を続ければ人材獲得競争にも大きな支障を来すことが考えられますし、今後も副業を希望する労働者は増加していくことになります。これを機に、いま一度社内ルールを見直すことは有意義ではないでしょうか。
執筆者
荒井 太一 森・濱田松本法律事務所 パートナー 弁護士東京弁護士会所属・ニューヨーク州弁護士登録。様々な規模・業界の訴訟・M&A・一般企業法務を担当。慶應義塾大学法学部、バージニア大学ロースクール卒業後、米国三井物産株式会社、三井物産株式会社での勤務を経て、2015‐16には厚生労働省労働基準局に出向。主な著書に『実践 就業規則見直...