企業にとって、それはリスクとなり得る一方で社員の成長を促す機会にもなり得ます。本記事では、企業の人事担当者や経営者に向けて、社員の経理副業における注意点、企業が取るべき対策、そしてリスクとメリットについて詳しく解説します。副業で経理の仕事はできる?まず、社員が副業で経理の仕事をすること自体は、法律上禁止されていません。厚生労働省の「モデル就業規則」でも、一定の条件のもとで副業が認められています。ただし、企業は就業規則によって、以下の様なケースでは社員の副業を禁止または制限することができます。社員の副業を制限できるケース詳細労務提供上の支障がある場合副業によって、社員の本業の業務に支障が生じる。例えば、長時間の副業により、睡眠不足や疲労が蓄積し本業のパフォーマンスが低下する場合など企業秘密が漏えいする場合副業を通じて、企業の機密情報やノウハウが外部に漏洩する恐れがある会社の名誉や信頼関係を破壊する行為がある場合副業の内容が、会社の社会的評価を低下させたり、顧客や取引先との信頼関係を損なったりする場合競業により会社の利益を害する場合副業が、会社の事業と競合する場合特に経理は会社の財務状況を詳細に知る立場にあるため、情報漏洩や競業行為のリスクは他の職種に比べて高いと言えます。企業としては、社員から副業に関する相談があった場合は、まずは内容を詳しく聞き取り、就業規則に照らし合わせて慎重に判断することが重要です。経理の仕事は主に3つ社員が行う可能性のある経理の副業は、主に「日次・月次・年次」の3つの業務に分けられます。これらの業務は、企業の規模や業種によって内容が異なる場合がありますが、基本的な役割は共通しています。以下から、詳しい仕事内容を見ていきましょう。日次業務:請求書や領収書の処理など日次業務は、企業活動における日々のお金の動きを処理する経理の基本的な業務です。具体的には、以下のような業務が挙げられます。現金の入出金管理と記録取引先への請求書の発行受領した領収書の整理従業員が立て替えた経費の精算これらの業務は、企業のお金の流れの出発点であり正確な記録が不可欠です。例えば、請求書の発行ミスは未回収金に繋がり、領収書の紛失は経費計上漏れに繋がります。そのため、日次業務は、一つ一つの取引を慎重に確認し、丁寧に処理していくことが求められます。月次業務:記帳業務、給与計算など月次業務は、毎月1回の定期的に行う経理業務です。主な業務は、以下のとおりです。日々の取引を会計ソフトなどに入力し帳簿を作成する記帳業務従業員の給与計算と支払い月ごとの売上や費用をまとめ経営状況を把握するための資料を作成する月次決算記帳業務では、日次業務で処理された取引を正確に帳簿に反映させることが求められ、給与計算は、従業員の労働に対する対価を正確かつ期日通りに支払う、企業の信頼に関わる業務です。そして月次決算は、経営者が現状を把握し、次の一手を打つための判断材料となります。これらの業務は、企業の1ヶ月間の活動を総括し、経営の羅針盤となる重要な役割で、慎重性と正確性が非常に求められる業務です。年次業務:決算書作成、年末調整など年次業務は、年に一度、企業の1年間の活動を締めくくる、経理業務の中でも特に重要な業務です。主な業務内容は、以下のとおりです。1年間の売上や費用をまとめ、貸借対照表や損益計算書などの決算書を作成従業員の1年間の所得税を計算し過不足を調整法人税や消費税などの税金を計算し、国や自治体に申告決算業務で作成される決算書は、株主や金融機関など企業の利害関係者にとって重要な情報源となります。年末調整は、従業員が適正な税金を納めるために不可欠な手続きです。そして税務申告は、企業の納税義務を果たすための重要な手続きです。これらの業務は、企業の1年間の成績を確定させ対外的に公表する、いわば企業の「通信簿」を作成する作業です。高度な専門知識を要するため、税理士や公認会計士と連携して行うことも一般的です。副業で経理は人気ある?経理の副業は、社員にとって魅力的な選択肢として注目されています。その人気が高まっている主な理由は、以下の3点です。クラウドソーシングの普及により、柔軟な働き方が可能スキマ時間を活用して収入を増やせる専門スキルを磨き、キャリアアップにつなげられるクラウドソーシングサービスを活用すれば、自宅でできる案件が多く、時間や場所に縛られずに働けます。コロナ禍を経てテレワークが普及したことで、子育てや介護と両立しながら働きやすい環境が整いました。また、経理は専門性が求められる職種のため、副業でも比較的高収入を得やすい傾向があります。スキマ時間を活用しながら取り組めるため、本業に支障をきたさずに収入を増やせる点も大きな魅力です。さらに、副業を通じて本業では経験できない業務に携わることで、経理スキルの向上が期待できます。経理代行業務の専門業者に登録すれば、より高度な案件に挑戦する機会が広がり、キャリアアップにもつながるでしょう。社員が副業で経理の仕事をする際の注意点社員が副業で経理の仕事をする場合は、以下のような注意が必要です。資格が重視される職種専門的な職種ゆえの厳しい評価を受けることがある繁忙期が被るそれぞれの注意点を確認し、副業を希望する社員と共有しましょう。資格が重視される職種経理の副業では、実務経験とともに資格の有無が重視される傾向にあります。つまり、資格を持っていないと持っていない人に比べると不利であるとも言い換えられるので注意が必要でしょう。特に以下の資格がアピールポイントとして有効です。簿記検定: 経理の基礎知識を有していることの証明となり特に2級以上は評価されやすいファイナンシャルプランナー:経理業務に関連する資格として人気が高い副業を探す際は、クラウドソーシングサービスや経理代行業者への登録が一般的ですが、プロフィールや職務経歴書に、これらの資格や経験を具体的に記載することで、案件獲得の可能性を高めることができます。資格がなくても経理の副業は可能ですが、より専門的な仕事や高単価の案件を目指すのであれば、資格取得も視野に入れると良いでしょう。専門的な職種ゆえの厳しい評価を受けることがある副業として経理業務を請け負う際、企業や個人事業主は即戦力として高いレベルの成果を期待しているため、クライアントの評価が厳しくなることがあります。専門職としての経理の副業は、高報酬を得られる可能性がある一方で、ミスが許されないというプレッシャーも伴います。そのため、業務に取り組む際は、常にプロとしての責任感を持つことが不可欠です。定期的に案件をこなし、納期を厳守し、質の高い成果物を提供することで、クライアントからの信頼を得ることができます。こうした積み重ねが、継続的な仕事の獲得や安定した収入につながるでしょう。繁忙期が被る経理の仕事には繁忙期があり、本業と副業で重なる可能性があることに注意が必要です。一般的に、月次業務は月初、年次業務は3月の決算期や年末調整の12月頃に忙しくなります。主に以下の点に注意をしましょう。本業への支障: 副業に時間を取られ本業の業務が疎かになる健康への影響: 過労や睡眠不足により体調を崩す副業の質の低下: 時間に追われ副業の仕事の質が低下する副業の案件も同じ時期に繁忙期になる可能性が高いため、スケジュール管理を徹底し、無理のない範囲で仕事をするよう注意を呼びかけましょう。【まとめ】経理の副業はリスク管理を徹底し健全な関係構築を社員の経理副業は、企業にとって情報漏洩や競業などのリスクがありますが、適切な対策を講じることで社員のスキルアップやモチベーション向上に繋がる可能性も秘めています。本記事で解説した注意点を踏まえ、就業規則の整備、副業申請・許可制度の導入、社員への情報提供を徹底しましょう。企業と社員双方が、副業に関するリスクとメリットを理解し、透明性の高いコミュニケーションを通じて健全な関係を築くことが重要です。