定年後再雇用者がより充実したキャリアを築くためには、柔軟な働き方を可能にする副業制度が鍵となります。この記事では、シニア社員の活躍を支える企業事例や、副業制度を導入する際の注意点を詳しく解説します。自社に適した制度設計のヒントを得るために、ぜひ最後までご覧ください。定年後再雇用とは定年後再雇用とは、高年齢者雇用安定法に基づき、定年を迎えた社員が希望すれば、新たな雇用契約を結んで継続して働ける制度です。この制度は「高齢者雇用確保措置」の一環として定められており、企業は以下の3つの措置のいずれかを講じる義務があります。定年制の廃止定年の引き上げ継続雇用制度の導入定年後再雇用は、これらの中でも継続雇用制度の一つで、社員をいったん退職扱いにし、退職金を支払った後、新たな雇用契約を締結する仕組みです。この際、雇用形態や労働条件が変更されることが一般的です。再雇用制度は中小企業を中心に広く採用されており、高齢者雇用の中でも最も一般的な方法として定着しています。この制度は、社員が働き続ける機会を確保するだけでなく、企業にとっても経験豊富な人材を活用できるというメリットがあります。一方で、副業や新しい働き方を希望する定年後再雇用者が増えていることから、企業にはより柔軟な雇用形態の導入が求められる時代となっています。シニア社員の活躍に取り組む企業事例シニア社員の活躍を促進するため、多くの企業が独自の制度や取り組みを導入しています。ここでは、3つの企業の成功例を紹介します。イオンリテール株式会社イオンリテール株式会社は、食料・衣料・雑貨などを扱う総合小売業者です。従業員の平均年齢は44歳で、65歳以上の者の割合は11%となっていました。見直しの背景近い将来における定年退職者の増加に伴い、人手不足になることが予測されました。特に、「業務に関する深い知識」のある人材の不足が課題になることが見込まれていました。見直しの内容見直しの中心は、65歳定年到達後もフルタイムの正社員として働ける「エルダー社員」制度を導入した点です。職務難易度や責任に応じた等級制度を設け、等級上位になれば65歳の定年時と同程度の給与となり、賞与も支給されるようにしました。また、70歳以上75歳までを対象とした時間給社員の再雇用制度も新設しました。変更前の再雇用制度では一律で時間給社員への移行でしたが、新制度ではリーダーや課長、店長クラスとしても勤務できるように変更しています。見直しの効果新制度により、65歳以上の正社員雇用継続率は69%から85%へと向上しました。フルタイム雇用を希望する社員が増え、熟練した即戦力の確保が可能となり、人手不足の解消に貢献しています。さらに、エルダー社員による現役社員のサポートが若手育成に好影響を及ぼし、組織の活性化を促進する効果をもたらしました。また、70歳以上の再雇用制度により、豊富な経験を持つシニア社員が店舗運営を支える一方、ダイバーシティ経営の実践や定年制廃止の検討に向けた基盤づくりも進んでいます。三菱UFJ信託銀行株式会社三菱UFJ信託銀行株式会社は、日本を代表する三菱UFJフィナンシャル・グループの一員です。2024年時点で、継続再雇用社員は約500人ですが、2030年にはバブル期採用世代の加齢により60歳以上の社員が約800人になる見込みとなっています。見直しの背景三菱UFJ信託銀行では、60歳定年後の継続雇用社員の増加が予測される中、シニア社員のスキルや知見を効果的に活用し、処遇面での満足度を高める必要性がありました。また、再雇用後の職務や役割が明確でないことによる課題も浮き彫りになり、対象者のモチベーションを高め、組織貢献を促進する仕組みが求められていました。見直しの内容60歳定年後のパートナー嘱託に対し、「シニアジョブコース」を新たに導入しました。職務定義書を通じて職務やノウハウを明確化し、専門性や組織への貢献度に応じて認定を行い、認定されると職務給として50万~100万円程度の処遇改善を行いました。また、研修やキャリア面接を重視し、キャリア形成の支援や管理職向けのシニアマネジメント研修も実施しています。見直しの効果シニアジョブコース導入により、シニア社員の職務が明確化され、積極的な業務拡大や組織貢献が増加しています。制度導入1年で、非認定社員にも良い影響が波及し、シニア社員の活躍がさらに促進されています。大和ハウス工業株式会社大和ハウス工業株式会社は、建築事業や都市開発事業を中心に、環境エネルギー事業や海外展開も行う総合建設企業です。60歳以上の社員は全体の6.2%(1,070名)を占めており、今後のシニア社員の増加が見込まれています。見直しの背景大和ハウスでは、2024年問題(時間外労働の上限規制適用)やベテラン社員の活用が事業継続に不可欠と考えられていました。加えて、60歳以降に賃金が下がる現行制度に社員の不満があったため、役職定年の廃止を含む処遇制度の見直しが検討されていました。見直しの内容60歳以降も従来と同様の評価処遇を適用し、賃金の大幅な減額を撤廃し、技術系職員には年齢上限を撤廃しました。また再雇用制度を強化し、週4日勤務(月22万円)と週5日勤務(月最大35万円)の選択肢を提供しました。見直しの効果制度見直しにより、特に技術職において社員の流出を防ぎ、人手不足の解消に貢献しました。役職定年の廃止により、管理職継続の可否を評価する運用の負担が増加したものの、全体として、シニア社員が持つ経験を活かしつつ、組織全体の活性化につながる取り組みが進んでいます。副業・兼業制度で定年後再雇用者のキャリアを支援多くの企業が直面する課題の一つに、定年後のシニア社員をどのように活用するかがあります。年齢を重ねるとともに、ポストや業務範囲が限定されることで、将来への不安やモチベーションの低下が生じることが少なくありません。しかし、副業・兼業制度を導入することで、この課題に対処する可能性が広がります。例えば副業・兼業制度を導入することで、社員の定年後の選択肢が増えることが期待されます。以下で詳しく見てみましょう。定年後の選択肢も増える副業や兼業の普及により、定年後の働き方はますます多様化しています。その中でも注目されているのが、フリーランスや個人事業主に代表される「業務委託型」の働き方です。従来の雇用型とは異なり、業務委託型では自身のスキルや専門性を活かして仕事を行い、成果に応じた報酬を得る仕組みが特徴です。雇用契約と比べて自由度が高く、個々の目指すキャリアを追求しやすい点が魅力といえます。例えば、タニタや電通では、社員が定年前後から業務委託として働く「個人事業主化」制度を導入し、定年後もスムーズに仕事ができる環境を整えています。定年前から副業でスキルや人脈を築いておけば、定年後も充実したセカンドキャリアを送ることができるでしょう。企業にとっても、社員の選択肢を増やし、組織の活性化につながる有効な手段となります。定年後再雇用者に向けて副業制度を導入するうえでの注意点副業制度の導入は、定年後再雇用者のキャリア支援やモチベーション向上に効果的な手段として注目されています。しかし、制度を効果的に運用するためには、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、副業の許可条件や情報公開の必要性が示されています。特に、副業による過労や競業避止義務違反が問題にならないよう、企業としてのポリシーをしっかりと定めることが求められます。次に、就業規則の整備が不可欠です。副業による本業への影響を最小限に抑えるために、副業可能な業務の範囲や時間制限を具体的に規定し、従業員に明確に伝える必要があります。こうした取り決めを行うことで、トラブルを未然に防ぎ社員の自由な働き方をサポートすることができるでしょう。【まとめ】定年後再雇用者のキャリアを支える副業制度の可能性定年後再雇用者の活躍を支えるには、副業制度の導入が重要な選択肢となります。この記事で紹介した事例や注意点を参考に、自社に合った制度を検討し、社員の柔軟な働き方をサポートしてください。適切な制度設計とサポート体制を整えることで、企業と社員双方にとってメリットの大きい持続可能な職場環境が実現できます。