副業制度を導入する際は、労働時間の管理が企業にとって重要な課題となります。特に本業と副業の労働時間を通算する必要があるのか、またその際の注意点について詳しく知りたい方も多いのではないでしょうか。この記事では、企業が労働時間を適切に管理するための通算ルールや、副業による健康面や情報漏洩のリスク対策について解説します。副業を許可する際のポイントを押さえ、社員の健康と企業の安全を守るための参考に、ぜひ最後までお読みください。企業は本業と副業の労働時間を通算で管理する必要がある?企業は本業と副業の労働時間を通算で管理する必要があります。この章では労働時間を通算管理しないといけない理由や、通算のルールなどを詳しく解説します。副業制度に用いる通算ルールとは副業制度を運用するうえで重要になるのが「労働時間の通算制度」です。本業と副業で労働時間を通算して、8時間を超える部分は割増賃金を支払う必要があります。本業と副業の通算ルールに関して、労働基準法では以下のように定めています。・第38条労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。・「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む引用:厚生労働省「労働時間通算の規定について」例えば、本業(所定労働時間8時間)で8時間働き副業で3時間働いた場合、副業先は法定労働時間を超える3時間に対して、まるまる割増賃金を支払う義務があります。従業員に法定労働時間を超え労働させた場合は、使用者は6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性があるので注意が必要です。引用:労働基準法119条1項例外として労働者と「36(サブロク)協定」を結んでおけば、1ヵ月45時間・1年間360時間を上限とした時間外労働が認められます。1日8時間・週40時間を超える時間外労働が見込まれる場合は、事前に「36協定」を結んでおきましょう。労働時間管理の対象になる副業とは労働時間管理の対象となる副業は、労働法に定められた以下の雇用形態となります。正社員契約社員パートタイムアルバイト上記は労働基準法に定められた雇用形態なので、本業と副業を通算して労働時間管理を行いましょう。一方、以下の形態は労働時間管理の対象にはなりません。経営者個人事業主フリーランス農業・水産業 などこれらは雇用契約を必要としないため労働基準法の適用外となり、労働時間管理の必要はありません。ただし、長時間労働にならないよう自主的な労働時間管理を行い、社員の健康管理に注意する必要があるでしょう。社員の副業で労働時間管理を行う際の注意点従業員に副業を許可する場合、企業は労働時間の適切な管理が求められます。労働時間管理をする上では、以下の点にも注意し適切に管理しましょう。健康面に配慮する情報漏洩の防止策を考える競合企業での副業を制限するそれぞれの内容をおさえ、従業員に定例会や通知を利用して周知しましょう。健康面に配慮する副業制度を運営するうえでは、社員の健康面への配慮も重要になります。厚生労働省は「労働者が生命・身体の安全を確保しながら働ける環境を提供すること」としており、労働者の健康を守ることも企業の義務としています。使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。引用:労働契約法 第5条労働時間管理を社員だけに頼る場合、企業側で適切な労働時間の把握が難しくなり、結果として過度な労働となる傾向があります。こうしたリスクを回避するため、企業は労働時間管理ができる体制を整え、過労の兆候が無いかチェックし、社員の健康状態を定期的に確認することが重要です。また、企業内でガイドラインを作成し、副業に関する報告義務や健康管理の重要性を従業員に周知徹底することも有効的です。企業は副業を行う従業員の健康を第一に考え、労働時間の管理と健康状態の確認を徹底し、安心して働ける環境を提供しましょう。情報漏洩の防止策を考える従業員が複数の企業で働く場合、企業の機密情報を副業先に漏らしてしまう可能性が高まる点を念頭に置く必要があります。大きな損害を与えるリスクを軽減するために、従業員に対して明確なガイドラインを設け、業務上の秘密情報を副業先に漏洩しないように注意を促すことが重要です。具体的には、以下のような対策を取ることで情報漏洩を未然に防ぐ企業が増えています。効果的な手段備考副業届出制度・副業をする場合は「勤務先」や「勤務時間」などを届け出誓約書の提出・機密事項や企業のスキルを漏洩しない旨の誓約書社内規程の整備・同業企業や取引先で副業をしないなどの規程情報漏洩は、企業の信頼や競争力を損なう重大な問題となり得るため、従業員と企業双方で情報漏洩防止策を徹底することが求められます。競合企業での副業を制限する社員が競合企業での副業を希望する場合は、副業を制限・禁止することを検討すべきです。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、以下のケースでは会社は例外的に副業を禁止・制限できるとしています。労務提供上の支障がある場合企業秘密が漏洩する場合会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合競業により、企業の利益を害する場合厚生労働省は「副業は許可すべき」としつつも、「4.競業により、企業の利益を害する場合」は、副業を禁止できるとしており、企業には副業の制限を認めています。「競合の利益になる」「自社の損害になる」ケースは副業を制限できるように社内規程を整え、従業員に周知徹底しましょう。労働時間管理のおすすめツールここからは実際に労働時間管理をするうえで、強力な味方となるツール3つを紹介します。勤怠管理ツールエクセルICタイムカード勤怠管理ツール勤怠管理ツールは勤怠管理に特化したツールで、労働時間管理に加え給与計算やシフト作成まで可能な便利なソフトが多くあります。インターネット上でデータを管理する「クラウド型」と、自社のパソコンでデータを管理する「オンプレミス型」の2種類が一般的です。クラウド型はインストール不要で、どこからでもアクセスできる便利さが利点な一方、オンプレミス型はデータセキュリティを確保しやすい利点があります。企業のニーズに合わせて最適なタイプを選びましょう。エクセルエクセルをすでに導入している企業であれば、特別なコストをかけず労働時間管理を開始できる勤怠管理ツールとなります。web上にテンプレートが多数公開されているので、特別な技術が無くても簡単にフォーマットを構築できるでしょう。しかし計算式の間違いや入力間違いなどの人的ミスがあり、データの改ざんや不正アクセスのリスクが払拭できない点に注意が必要です。小規模な企業や簡易な労働時間管理を行いたい場合には、エクセルは有効なツールですが、従業員が多く複雑な管理が必要な大中規模企業にとっては、より高機能な勤怠管理システムがおすすめです。ICタイムカードICタイムカードは、多くの企業で採用されている労働時間管理ツールです。多額な設備投資が不要にもかかわらず、正確な労働時間管理が可能な点がメリットといえるでしょう。しかし副業先との連携は難しく、本業と副業を通算した労働時間管理には向いていません。他の補完的な管理手法と併用することで、本業と副業を通算した労働時間管理にも対応可能です。【まとめ】副業制度における労働時間管理は企業にとって欠かせない課題副業制度を運用するうえで、労働時間管理は企業にとって欠かせない課題です。しかし、労働時間の通算ルールにより、多くの割増賃金の支払いが発生してしまうことを懸念した企業側は、自社が副業・兼業先となる雇用に前向きな姿勢を示していませんでした。実質、副業制度の導入があまり進められていない状況というわけです。このような問題をふまえ、政府の規制改革推進会議は、労働時間の通算ルールの見直しに関して、令和6年中に結論を得るとされています。こうした今後の動向を加味しながら、本業と副業の労働時間を通算する必要性や、健康面への配慮、情報漏洩リスクの防止策など、多岐にわたるポイントをおさえ適切な対策を講じることが重要と言えるでしょう。