「社員から副業したいとの申請を受けたが、どう対応すれば良いか分からない」「副業許可を出す際の注意点を知りたい」「他社の成功事例を参考にしたい」このようなお悩みはありませんか?この記事では、社員に副業許可を出す際の具体的な注意点や、実際の企業の導入事例について解説します。副業許可に関する疑問や不安を解消し、適切な対応ができるよう、ぜひ最後までお読みください。社員に副業許可する際の注意点まずは、社員に副業許可する際の具体的な注意点を解説していきます。厚生労働省は平成29年の「働き方改革」で、「企業は社員の要望に応じて副業許可を出すべき」としていますが、実際に実際に副業制度を導入するにあたり、以下の4つの注意点があります。労働時間の把握秘密保持義務の遵守社会保険料・労災保険の確認副業の禁止・制限事項の明文化それぞれ順番に見て行きましょう。労働時間の把握社員に副業許可を出す際に、最も注意しないといけないポイントの一つが「労働時間管理」です。本業で8時間働き副業で3時間働いた場合、副業先は8時間の法定労働時間を超える3時間に対して割増賃金を支払う義務があります。本業と副業の労働時間に関して、労働基準法では以下のように定めています。・第38条労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。・「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む引用:厚生労働省「労働時間通算の規定について」割増賃金の負担は副業側の企業にありますが、副業を許可する企業にも社員の労働時間を正確に把握する必要があります。社員の健康管理の観点からも、労働時間の自己申告を社内規程で明文化し、過労にならないように配慮しましょう。なお副業が個人事業や委託契約の場合は、労働基準法は適用外となります。しかし、社員の健康管理は副業先が企業・個人にかかわらず重要となるので、社員が個人事業主や委託契約として副業をする場合でも、過重労働などのリスクは存在するため、十分注意しましょう。秘密保持義務の遵守社員に副業許可を出す際の注意点として、企業に蓄積されたノウハウや機密事項の漏洩の危険が高まる点が挙げられます。そのため、厚生労働省による「モデル就業規則(令和5年7月)」では、「企業機密が漏洩する場合」は社員の副業を禁止することができるとしています。また、情報漏洩を未然に防ぐために、競合企業や業務に支障がある企業での副業を禁止する以下のような対策を取る企業も増えています。効果的な手段備考副業届出制度・副業をする場合は「勤務先」や「勤務時間」などを届け出る制度誓約書の提出・機密事項や企業のスキルを漏洩しない旨の誓約書社内規程の整備・同業企業や取引先で副業をしないなどの規程厚生労働省は「労働者の副業は原則許可すべき」としながらも、「自社に損害を与える可能性がある場合には例外的に企業は副業を制限できる」としているところがポイントです。上記のような対策で秘密保持義務の遵守を徹底することで、企業の機密情報を守りつつ、社員の副業活動を支援することが可能となります。社会保険料・労災保険の確認社員に副業許可を出す場合、社会保険料や労災保険に関しても注意が必要です。社会保険に関しては副業先の勤務状態によって異なりますが、基本的に本業・副業にかかわらず労働者を雇用する企業は支払う必要があります。また労災保険に関しては、原則として労災に遭った企業分の収入に対してのみ補償されるのが特徴です。例えば副業先で労災に遭った場合、副業分の収入しか補償されず、本業の分の収入は補償されません。副業を許可する立場の企業は、このような労災の特徴を社員に周知するだけでなく、副業先で労災に遭った社員が、長期休暇を取る可能性があることも想定しておきましょう。よくある事例として、本業の勤務先から副業の勤務先への通行途中の事故は、副業となる企業に労災保険が適用されます。厚生労働省によると、「事業場間移動は当該移動の終点たる事業場において労務の提供を行うために行われる通勤である」としています。(厚生労働省:基発第0331042号)つまり、労災等の責務は「終点の事業場」となり、副業勤務先に向かう途中での事故は、副業分の労災保険しか補償されません。副業の禁止・制限事項の明文化社員に副業許可を出す前に、副業の禁止や制限事項に関して明文化をしておくことが重要です。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、以下のケースでは会社は例外的に副業を禁止・制限できるとしています。労務提供上の支障がある場合企業秘密が漏洩する場合会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合競業により、企業の利益を害する場合上記1~4を要約すると、社員に副業許可を出すことで「自社に損害がある」もしくは「競合の利益になる」ケースでは副業を禁止もしくは制限できる、となります。厚生労働省のガイドラインに沿った内容で社内規程で明文化し、副業の勤務先や勤務時間がわかるような届出書・秘密漏洩に関する誓約書などを整えましょう。社員が副業規則を守らなかった場合副業の禁止事項や届出制度などに加え、社内規程では副業規則を守らなかった場合のペナルティも明確にしておく必要があります。違反が発覚した場合は、具体的な事実に基づく「自社に与えた損害」や「競合に与えた利益」などの影響度を定量化したうえで、適切な処分を決定します。後に当該社員とトラブルにならないよう、懲戒処分が妥当かどうか、処分の根拠は客観的なデータに基づいているかなどを検討し判断しましょう。また、社員が副業規則を守らなかった場合のペナルティーを明文化するのと同様、副業規則を守るように日頃から社員に働きかけることも重要です。「企業としては柔軟に副業許可を出す」但し「ペナルティーなどを示した社内規程がある」、など定期的な会議や講習を活用することで社員に周知できます。ペナルティー規則を規定するだけではなく、実際の運用を通じて従業員が不公平感や不信感を抱かないよう、企業と従業員が互いに理解し、ルールを守る姿勢を醸成していきましょう。副業を許可する企業の導入事例ここからは、業界に先駆けて副業制度を整え、社員の成長が企業の成長に繋がる相乗効果を生み出している企業を2つご紹介します。株式会社リクルートサイボウズ株式会社副業許可を出す際のヒントがあるかもしれませんので、ぜひ参考にしてみてください。導入事例:株式会社リクルート株式会社リクルートでは、「会社の外の機会を活用することで学ぶことが可能となり、同時に会社としても新たな価値創造につながる機会」を得ることを目的に、副業制度を導入しています。実際に副業 / 兼業を行う従業員は、全体のおよそ7%である1404人にも及ぶことから、社員の中で副業が定着していることが伺えます。また、リクルートの年間平均週休は約3日と休暇制度も充実しています。このように、副業制度の導入にとどまることなく、社員が副業を行いやすい環境づくりにまで配慮した姿勢が、リクルートでの副業と本業の両立を促進していると言えます。導入事例:サイボウズ株式会社サイボウズ株式会社では、副業を「すべての私的活動と同様に、原則個人の自由」とする”複業”と定義づけ、社員が経済的にも精神的にも自立しながら、自分らしく働くことを目指しています。多くの企業が2019年のコロナ禍をきっかけに副業制度を導入している一方、2012年に先駆けて副業を解禁した特異な企業でもあります。副業制度導入の10年以上の実績を始め、より良い組織作りのために人事制度全般の改善に努めるサイボウズは、社員ごとに複業の形があると考え、複業として4つの働き方を用意したり、個人の価値観やライフスタイルに合った勤務時間や給与、働く場所を検討したりと、柔軟な対応を行っています。【まとめ】社員の成長が企業の成長に繋がるこの記事では、企業が社員に副業許可を出す場合の注意点や、社員が禁止事項を守らなかった場合の対応、具体的な導入事例などを解説しました。厚生労働省は「社員からの要望がある場合は副業許可を出すべき」としながらも、自社に損害を与える場合は禁止できるとしています。この記事の注意点を参考に社内規程を整え、副業による社員の成長が企業の成長に繋がるよう、取り組んでみてください。